話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『このマンガがすごい! comics 佐武と市捕物控 闇の片脚』『刻の祭り』
『このマンガがすごい! comics 佐武と市捕物控 闇の片脚』
石ノ森章太郎 宝島社 ¥590+税
(2017年5月17日発売)
『このマンガがすごい! comics 佐武と市捕物控 刻の祭り』
石ノ森章太郎 宝島社 ¥590+税
(2017年6月13日発売)
『佐武と市捕物控』が最初に『縄と石捕物帳』のタイトルで少年マンガとしてスタートしたのが1966年。その前年に開始した超能力SFの初期代表作『ミュータント・サブ』と、主人公の名前も同じなら顔もほぼ同じなのは、手塚治虫の諸作品でもおなじみ「スターシステム」ゆえだが、裏をかえせば当時の石ノ森章太郎にとって「サブ」こそが典型的な主人公像だったといって差し支えあるまい。その後も『イナズマン』の主人公・サブちゃんこと風田三郎を筆頭に、幾度となく石ノ森作品に「サブ」が登場したことから、著者自身の思い入れや使い勝手のよさがうかがい知れる。
一方、もうひとりの主人公・市は、いうまでもなく『サイボーグ009』のメンバー004ことアルベルト・ハインリヒに瓜二つだが、これもまた石ノ森の描く典型的なニヒリスト顔。のちにテレビ『イナズマン』(73〜74年)の第1話に登場した怪人イツツバンバラは、あの市の顔が縦に5つも並ぶ、まさに名は体を表すニヒリスト顔の大盤振る舞いで強烈なインパクトを放った。
というのは完全に余談だが、とにかく『佐武と市捕物控』は、石ノ森キャラを代表する2大スターがコンビで主役を務めた作品であり、両者のキャラクターの対比がバディものとして最大限に効果を発揮し、本作を石ノ森の代表作たらしめたことは疑う余地もない。
もちろん本作が傑作たりえた要因はキャラクターの魅力のみにあらず。石ノ森の作風や作家としての資質を語るうえでの常套句が「コマ割りの妙」なわけだが、そのキレ味はまさに市の居合のごとく、本作でも十全に発揮された。
さらには、ヒーロー活劇を描いても悲劇的なキャラクターの設定と破滅的な物語の結末で、読者を絶望のどん底に叩き落とす「救いのなさ」もまた石ノ森作品の持ち味だが、犯罪を通して欲望、憎悪、特殊性癖など人間の深い業をエグる本作の物語はまさに救いがなく、その点においても水をえた魚のごとく筆が乗っていたに違いあるまい。
それほど、本作は悲劇悲劇のオンパレードだ。