田中あすかは、かしこく、社交性が高く、演奏がうまい、なんでもできる完璧な人間だ。そして、他人に本心を見せないミステリアスさを持つ。だから、久美子があすかを苦手だというのも、よくわかる。
全国大会まで日が迫るにつれ、部員たちに焦りが生まれてくる。あすかは全国大会に出られるのか――。
パートの後輩でもある久美子は、部にとって、そして自分にとってのあすかの存在の大きさをあらためて実感し、とある行動に出る。
そしてそれが、あすかのつくる壁を破ることにつながる。どちらかといえば、「傍観キャラ」であった久美子の成長ぶりがうかがえるのも、『最大の危機』の魅力である。
本シリーズは、ユーフォニアムパートの熱い友情にぐっとくること間違いない。
コンクールメンバーに久美子が選ばれた時、希美の部活復帰の際など、これまでに要所で部のために動いてきた夏紀は、今回も大活躍。やっぱり夏紀先輩は超かっこいい、素敵女子なのだ!
さらに、久美子の家庭内にも危機が訪れていた。なんと、姉・麻美子が、大学を辞めるといい出したのだ。これまで大きなカラミのなかったお姉ちゃん編突入に、麻美子さんファン歓喜必至!
高校で吹奏楽に全力を注ぐ久美子に対し、麻美子は吹奏楽をやめて、いい大学を出て、いい会社に就職するために勉強をがんばってきた。だからどこか、吹奏楽に励む久美子に対する麻美子の態度はそっけなかった。
しかし、順風満帆に思える麻美子の人生設計は、麻美子の大きな決断によって、思いがけない方向に進んでいく。
そして、さらに、久美子を動揺させる出来事が。
夏合宿で、久美子は外部指導員の橋本先生から、滝先生の奥さんが5年前に亡くなっていることを聞いていた。ひょんなことから、滝先生が奥さんに贈ったイタリアンホワイトの花言葉を知った久美子は、心にモヤモヤした感情が生まれる。
滝先生に恋する麗奈がこのことを知ったら――。“引力”で結ばれた久美子と麗奈の関係にも暗雲が立ちこめる!?
尊敬するあすか先輩の退部騒動、姉の進路変更、滝先生の秘密……同時期に起こった3つの事件に久美子は……。
しかし、物語はまだ序章にすぎない。全国大会という最高のステージに向けて、第1巻で巻き起こった怒涛の嵐は、どう収束するのか。
これまでの様々な伏線の回収にも期待しつつ、先輩後輩の垣根を越え、等身大の自分でぶつかりあう彼女たちの青春譚に胸を躍らせてほしい。
<文・穂高茉莉>
楽器店店員。『このマンガがすごい!2016』、「このマンガがすごい!WEB」のアンケートに参加中。最近少女マンガのレビューのお仕事もちょこちょこと始めました。