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『人形の国』(弐瓶勉)ロングレビュー! 『シドニアの騎士』の著者の最新作!  これは「SF」? …… いや、弐瓶ワールド炸裂の「変身ヒーローもの」だ!!

2017/07/06


次々と仲間を失い、自らの命も風前の灯火という状況で、ついに「正規人形」となる主人公。 このネームの多さと飛び交う専門用語にニヤニヤが止まらない!?

次々と仲間を失い、自らの命も風前の灯火という状況で、ついに「正規人形」となる主人公。
このネームの多さと飛び交う専門用語にニヤニヤが止まらない!?


とりあえず特筆しておきたいのは、今作は「ヒロインがめっちゃかわいい」ということ。それもまた、本作が読みやすく感じられる要因のひとつではあるのだが、そのまま素直にかわいいだけではすまされないのも弐瓶作品ならでは。
「折りたたみ式の自動機械」であるタイターニアは、とある事情によって人間の姿を長時間維持することができず、通常は小さなトカゲのようなメカになってしまう。もっとも、読んでいるうちにそれはそれで萌え要素な気もしてくるのだが、やはりそうした一筋縄ではいかない描写がじつに「らしい」ポイントだ。

現時点では脆弱な主人公を、身を挺して守るヒロインという構図。 この関係性がどう変化していくのかも見どころとなるだろう。

現時点では脆弱な主人公を、身を挺して守るヒロインという構図。
この関係性がどう変化していくのかも見どころとなるだろう。


そんな弐瓶勉ならではのテイストと、ベタともいえる要素の見事な融合は、主人公のエスローにも見てとることができる。
少ない可能性にかけてどうにか「正規人形」となるも信じられないほどあっさり完敗し、その治癒に数カ月を要する脆弱さは、じつに弐瓶ワールドの登場人物という雰囲気満点。
その一方で、帝国軍の正規人形を倒すことで自らの基礎能力が増強されるという設定は、非常に正統派のヒーローものをほうふつとさせる。復活後、いきなり「無理!」という強者オーラを発する正規人形に対峙することとなるバトルは、そんな様々な要素が昇華された緊張感あふれる「変身ヒーローもの」として、溜飲が下がること間違いなしだ。

「鎧化」したエスローが、ぎこちないながらもその能力の片鱗を見せるバトル。 今はまだ弱い力が、敵の強大な力を穿つ描写がたまらない。

「鎧化」したエスローが、ぎこちないながらもその能力の片鱗を見せるバトル。
今はまだ弱い力が、敵の強大な力を穿つ描写がたまらない。


極めて強い作家性を持つゆえに、これまでは「好きな人にはたまらない」と評されることも多かった弐瓶作品だが、本作ではある種の「メジャー感覚」をも獲得した感触もある。
おそらく作中で完全に解き明かされることはないであろう数々の謎は紛れもない従来の弐瓶作品でありながら、それがすんなり楽しめてしまうという奇跡。この愉悦を知らないのは「人生、損してる」とさえ断言したくなる一作である。

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<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。

単行本情報

  • 『人形の国』 第1巻 Amazonで購入
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