一時はそんなジレンマにとらわれた高寿が、愛美の立場を思いやることによって持ちなおすに至る。自分が思い悩むのと同じ苦しみを、彼女も担っているはず。どうにもならない運命を呪うよりも、何よりも、今この時を、今いっしょにいられる幸せを大切にするべきではないのか。
高寿が到達するのは、普遍的な答えだ。
人はいつ離ればなれになるかわからない。過去にこだわったり、未来を憂えることに時間を割いているのはもったいない!
最後の日“40日目”が刻一刻と近づくまでの、2人の日々の描写はなんとも印象的だ。本作のカメラは、もうじきこの世界から消えてしまう愛美の様々な表情を記憶におさめようとする高寿の気持ちに同期する。やさしく包みこむような笑顔、いたずらっぽい表情、「愛してる」とつぶやく真剣なまなざし、隠しきれないせつない気持ちも。
クライマックスにかけての描写には、結末がわかっていても胸がしめつけられる。とても短い期間限定の恋だけど、20歳の恋人同士として過ごした40日間は決して消えることはない。「愛は永遠」って、そういうことではないだろうか。
最終話のあとに収録された描きおろしストーリーは、高まりまくった感情をほっと和ませてくれる効果も絶大の、コミックスでしか読めない幻のエピソードである。
5歳の愛美が両親に連れられて初めて「隣の世界」にやって来たあの日——そう、人生で初めて高寿に出会った運命の瞬間が描かれている。
幼いながらに高寿の瞳に宿る何かを敏感に感じとった愛美。理不尽な時の流れのなかで、彼女がどれほど高寿を想い続けたかが伝わってくる。
1巻から改めて読み返したくなる粋なボーナストラックだ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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