複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう！　マンガを読めば、世相が見えてくる!?　マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう！　それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。

今回は、「最新トレンドに荒縄登場!?」について。

『縄 ―JOH―』
佐野タカシ 少年画報社 ￥600+税
（2014年6月発売）

今や宝島社は「ファッション誌の宝島社」である。
「Sweet」や「mini」、「大人のおしゃれ手帖」など、様々な年代をターゲットにしたファッション雑誌が数多く出版されており、そんな華々しい出版社の片隅で「このマンガがすごい!」編集部なんて、「石をひっくり返したらダンゴムシがいっぱいいたよ！」みたいなもので、陽当たりの悪いところで肩身が狭そうに「サブカルサブカル」とつぶやきながらモゾモゾしている連中ばかり。
これはイカン！
「このマンガがすごい!」のボンクラ編集部員たちにも、「ファッション誌の宝島社」の一員として、ファッションリーダーとしての自覚を持ってもらわないと困るッ！
ファッション誌の編集部に負けじと、おしゃれ情報をガンガンと発信していくべきなのだッ！

そして今最新のトレンドといえば、もちろん「荒縄女子」である。
先週9月11日、フジテレビ「めざましテレビ」が報じたところによると、なんでもベルトのかわりに荒縄を用いるファッションが大流行しているらしい。
このように荒縄をファッションの一部に取り入れているおしゃれ上級者を「荒縄女子」というそうだ。
「あれっすか、『君の縄。』ってヤツっすか？」などと、すでに日本中で1億回以上はこすられ続けたネタを口にした「このマンガがすごい！」編集長氏は万死に値するとして、この「荒縄」という最新おしゃれアイテムも、じつはマンガの世界ではいち早く取り入れられていることをここに指摘しておきたい。
「チェケラッチョおしゃれ手帖」というわけで、今回はマンガにおける荒縄特集である。

『へうげもの』 第1巻
山田芳裕 講談社 ￥524+税
（2005年12月22日発売）

少し歴史の話をすると、戦国時代には、芋の茎を味噌で煮しめて縄状にしたものをつくっていた。これは荷物を縛る縄として用いたり、兵士が腰に巻きつけて持ち運んだりしたもので、「芋がら縄」などと呼ばれていたものである。
まさに「荒縄女子」の荒縄ベルトと同じ用法だ。
ただ、芋がら縄は、適当な大きさに切って湯に入れると、味噌が溶け出して、即席の味噌汁にすることができる。いわば「戦国時代のインスタントみそ汁」であり、野戦食として重宝したという。
この芋がら縄が作中に登場するのが『へうげもの』である。
本能寺の変で信長を討った明智光秀は、しかし畿内へと神速の勢いで取って返してきた秀吉に敗れ、落ち武者となってしまう。
逃亡先の勝龍寺城に兵糧はなく、残された食料は芋がら縄のみ。敗北を覚悟した光秀は、重臣たちと芋がら縄でつくった味噌汁を最後の晩餐のように囲む。
その時光秀は、味噌汁に早咲きの桔梗を添え、白石の箸置きを用意する。ここに光秀は「わび」を体得したことを知るのであった。
さすが才人・明智光秀。
荒縄女子たちもワンランク上のおしゃれを目指すなら、まずは荒縄を味噌で煮しめることが肝要と心得よ。

『Present for me 石黒正数 短編作品集』
石黒正数 少年画報社 ￥543+税
（2007年8月発売）

そして荒縄は武器にもなる。
現在上映中の映画『ワンダーウーマン』の武器といえば、「真実の投げ縄」であり、この縄で捕縛された者は自分の意思とは無関係に、真実を話してしまう。今夏のハリウッドの映画では興行成績トップとなった世界的なヒット作の主人公・ワンダーウーマンもまた「荒縄女子」なのだ！
まさに世界的トレンド!!
そして日本が誇る、投げ縄を武器とするスーパーヒーローといえば、もちろん「なげなわマン」（『Present for me 石黒正数 短編作品集』収録）である。
会社をリストラされて自暴自棄になった中年男性が、唯一の特技「なげなわ」を用い、「なげなわマン」として正義に目覚め、ビジランテ活動をしようと試みるのだッ！
リストラへの復讐を誓い、一度はダークサイドに落ちかけた男が、英雄として覚醒していくスーパーヒーローの「ビギンズ」ものである。
なげなわマンの必殺技「なげなわ・シュート」を堪能してほしい。

『手品先輩』 第1巻
アズ 講談社 ￥565+税
（2016年8月5日発売）

そしてマンガ界最新の「荒縄女子」といえば、『手品先輩』のヒロイン（本名不詳）だ。
舞台となる種無高校は生徒全員が部活に強制的に入部しなければならないため、もともと帰宅部志望だった新入生（本名不詳）は、「適当でだらしない部活」を求めて奇術部へ。奇術部唯一の部員・手品先輩と出会ってしまい、いきがかり上、新入生は手品先輩の助手にされるのであった。
手品先輩はかわいいルックスに爆乳だが、極度のあがり症でコミュ障。人前で手品をしようとすると、ことごとく失敗してしまう。
「縄抜け」の手品を試みた際には縄が全身にからまって緊縛状態になるのであった！
1ページ1ネタ程度のショートギャグをベースとした、サービスショット（パンチラなど）ありの手品を題材にしたコメディ作品である。
本作は著者アズにとってのデビュー作。「このマンガがすごい！WEB」では2016年10月のオトコ編ランキングで第1巻が3位に入った、今注目の有望株である。

禍福はあざなえる縄のごとし。
トレンドとマンガの織り成すらせん構造の荒縄によって、ぼくらの塩基配列もDNAレベルでオシャレ進化した今、「このマンガがすごい！」こそがファッションの最前線。
今年も「このマンガがすごい！」本誌の発売時期が近づいてきたが、ファッション誌っぽく付録をつけるとか、どうでしょうかッ!!
もちろん付録は荒縄でッ!!
まあ、「何考えてンだ、コイツら」とは思われるでしょうが……。

＜文・加山竜司＞
『このマンガがすごい！』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー（オトコ編）を担当しています。
Twitter：@1976Kayama