ページをめくっていると、感受性豊かな水谷の目を通して見れば、「世界はこんなにみずみずしいんだな」という驚きや、子どものままではいられず大人にもなりきれないという、自分には過ぎ去ってしまった時期にいる(今真っ盛りの方ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんが……)水谷の感情を、自分もいっしょに見ていられるってことへのうれしさがこみあげてくる。
たぶん、ここで、「いっしょに見ている」って感じられるっていうのが、とてもすごいことで、高い表現力があってこそ、なのだと思う。
緻密に描かれた背景に、白と黒や影と光のコントラストが美しい絵と構図。水谷の詩的なモノローグに、言葉の妙のつまった会話たち……。どれもが絶妙のバランスであり、マンガの魅力である絵の力と詩的な言葉の力、両方の相乗効果によって、説得力ある世界観が立ちあがっているからだ。
水谷の心象風景、あふれる感情や思考は、モノローグだけでなく、絵でも表わされている。学校のなかは、人が多く、細かく、色あいもグレーが強く描かれ、モノクロームの世界で、どこか窮屈そうに描かれる。一方、月野といる時の風景は、目まぐるしく変わってゆくのだ。
夜の学校のプールの場面でも、お互いが本音を話し、水谷が月野を思って「友達になろう」と伝えると、黒かったプールが一転して白くなり、飛沫は美しく、ボールは飛び、まるで魔法がかかったかのようにきらきらした空間になる。夜だというのに、モノクロで描かれているというのに、世界がぱっとカラフルになったように見える。
エンタメとしておもしろいのはもちろん、マンガ表現のすばらしさがぎゅっとつまった作品なので、これからの表現にも目が離せないし、物語はまだ第1巻で春から夏休みが終わったところまで。この先、2人はどうなっていくのか。どうか不穏な方向へは行かず、いい感じになってほしい、と、続きにも目が離せないのだ。
<文・かとうちあき>
人生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』の編集長(仮)。野宿が好きです。だらだらしながらマンガを読むのも好きです。