死なない少女・πの弟、マッキが最初に読んでいる本は手塚治虫の『火の鳥 未来編』。
未来編は、火の鳥に選ばれた主人公・マサトが死ぬことも許されず、人類が滅亡した地球で新しい人類が誕生するまで見守ることになる物語だ。
πとマッキの母の初登場シーンは衝撃的だ。
不老不死の彼らにとって、母子の関係は成立しうるのか。
πとマッキは人間のいない世界を自由に動きまわり、一見この星の支配者のようにも見える。
しかし、母に禁じられていた動物を飼い、ペットとの死別を何度も経験してきたマッキはわかっているのだ。世界に取り残されているのは自分たちだと。
πはマッキとともに、生き残った人間を探す旅に出る。
そこで目にしたのは生殖し、次代へ命をつむぐ生きものの営み。
「いのちをつないでいく場所なんだ この世界は」「僕たちは所詮 この世界とは無関係な部外者なんだよ」
世界の輪から取り残されていることを初めて認識したπは泣き叫ぶ。
「む むかんけーな ぶがいしゃなんて…ヤダ」「み みんなと一緒がいい…」
死ぬことのできない2人の体験を通じ、生きること、死ぬことについて、様々な角度から光が当てられていく。
意外性に富んだ展開が急テンポで繰り広げられエンタメ性も高い作品だが、どっしりと重く、噛み応えのあるテーマを心に残してくれる。
πとマッキの行く末を見守りたい。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。