話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『ヨルとネル』
『ヨルとネル』著者の施川ユウキ先生から、コメントをいただきました!
『ヨルとネル』
施川ユウキ 秋田書店 ¥562+税
(2016年10月20日発売)
施川ユウキの2016年の活躍は目ざましかった。
読書マンガ『バーナード嬢曰く。』はアニメ化もあって本好きから注目され、どこをめくってもマズそうな『鬱ごはん』はグルメマンガ全盛の時代に裏街道をひた走る。
そしてこの『ヨルとネル』は4コママンガながらロードムービーに通じる空気感で、多くの読者をハッとさせた。
何か1作品がヒットし人気漫画家になる例は多いが、これだけバラエティに富んだ作品群がそれぞれに高い評価を受けるのも珍しい。それこそ施川の才能といえるだろう。
施川ユウキの人間や社会を観察するスタンスはシニカルだ。日常に隠れている負の部分や掘り出しても意味がないとされているものにあえてライトを当て、笑いを浮かび上がらせる。
その行為は反発や嫌悪感も呼びかねないが、不思議と読後にはほんのりとしたぬくもりが残る。それは社会からはみ出したり、こぼれ落ちかけたりしている者/物に対する肯定と共感のまなざしがあるからだろう。
前置きが長くなったが、『ヨルとネル』の話に移ろう。1巻完結の『ヨルとネル』は、「ヤングチャンピオン」に連載されていた4コママンガ。
主人公は普通の子どもだったが、こびとになってしまった少年・ヨルとネル。研究所から脱出した2人は、政府安全局に追われながらあてもなく南へ向かう。そのたった2人の逃避行を描く。
こびとにとっては、この世界は人間という巨大生物が棲むところ。すべてがビッグサイズだ。
ある日、風邪気味になってしまったネル。そこにヨルが「一回一錠だ」と“ばん”と風邪薬のカプセルを差し出す。デカい。「死ぬよ!」と返すネル。
忍びこんだ家でパック寿司を見つけ、イカの握りに腰かけるネル。「クッションも効いていい感じ」とはしゃぐ。一方ヨルは寿司を3貫並べてベッドにして寝る。「家具屋に来たカップルか!」……。
4コマのギャグを文章で説明することほど気恥ずかしいものはないので、あとはマンガを読んでほしい。