なかでも、ジャンプでメジャーデビューを果たしたものの3年近く芽が出なかった諸星大二郎の内なる闘いを当時の編集者の視点から描いたくだりは興味深い。いくら諸星が「天才」でも、その成功は王道少年漫画誌において彼のような作家の存在を認め、根気よく見守った編集者の存在なくしてはのものなんだな~としみじみ。「妖怪ハンター」の命名秘話には思わず拍手したくなりましたよ。
伽噺草子にインスピレーションを得た情念的ホラーで知られる近藤ようこにしても、彼女が独自の世界観を確立するまでには、じつは地道で人間くさい格闘があったわけで。それを支えたものとして、高校の同級生だった髙橋留美子との長きにわたる親交が描かれているあたり、これぞまんが道!で味わい深い。
諸星のエピソードとは対照的に、スプラッターな過激描写でシーンに衝撃を与え、一躍スター作家となった御茶漬海苔が人気の絶頂期に起こった「ある社会的事件」を発端に突如発表の場を奪われるくだりには、じつにやるせない気分に。現在はネットや動画配信サービスに「表現の自由」を見いだす動きもあるが、だからこそ、御茶漬海苔のあのマンガが少年少女が読む雑誌の巻頭を飾っていた時代の大らかさに感じ入らずにいられない。
あだちつよしの画も回を重ねるごとに格段にスキルアップしている感あり。なかでも手塚治虫をして「唯一真似出来ない画風」といわしめた諸星大二郎タッチの完成度は必見。田中圭一『ペンと箸』の諸星大二郎回と比べてみるのも、また一興だ。
ともあれ、次回は誰!? と妄想が膨らむ良企画。ぜひとも、コンスタントな続刊を期待!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
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