筆跡を鑑定するときに文字のどんなところに着目するのかといった知識がはさまれるのが興味深い。また、東雲が得意とする「筆跡から感情を読み取る」心理学的な技術に、己を振り返ってドキッとさせられたり……。
それにしても徹底して人づきあいを避けている東雲の、ときにポロリと見せる人間らしさが印象的だ。筆跡から真心を感じたときの、とろけるようにやわらかな表情。そもそも美咲が、東雲を信頼してみようと思ったのも、彼の書からあふれるような情感を感じとったからであった。
人が困っていたらほうっておけない美咲は、東雲とは正反対の性格だ。ひねくれ者の東雲にたびたび腹をたてながら、遠慮なく彼にぶつかっていく……そんな2人は意外といいコンビのようだ。
さて、“ラブレター事件”が解決した後には、東雲清一郎の名をかたる<ニセモノ男>が、美咲の友人をたぶらかす事件が勃発。犯人探しに乗り出す東雲の初手は、<ニセモノ>の書いたメモ書きから、見えない相手の性格を推理することだ。
筆跡鑑定を軸とした謎解きの妙はもちろん、東雲と美咲のコンビネーションにも注目。今後2人の距離感の変化、また東雲のバックグラウンドが明かされていくのが楽しみだ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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