第71回カンヌ国際映画祭の【コンペティション部門】において、パルムドール(最高賞)を獲得した是枝裕和監督の話題作、『万引き家族』が6月8日より、全国公開中!
さらに映画にあわせて、是枝監督自身が自ら書き下ろした映画の小説版『万引き家族』が、絶賛発売中!
そして今回、小説『万引き家族』について、なんと是枝監督に独占インタビューを行いました!
さらにそのインタビュー全文を、「このマンガがすごい!WEB」にて初公開!
「書く」と「撮る」という表現の違いについての考察から、過密スケジュールのなか、いつ、どこで小説を執筆していたのか……小説執筆の際の裏話など、いろいろと語っていただきました!
さらに、ワープロではなく手書きにこだわる是枝監督の、超貴重な直筆の(!)生原稿も本邦初公開いたします!!!
ぜひご覧ください!
是枝監督が自ら書き下ろした小説『万引き家族』について、監督が思いを語る!
――『万引き家族』という作品を、(映画ではなく)小説というもうひとつの表現で発表した理由、また今までは文庫本で刊行されていますが、今回、文庫本ではなく単行本で出版した理由・こだわりはありますでしょうか?
是枝
単行本が好きだからです。本の「重さ」が好きですね。装丁とかも楽しめるから。
そういう「モノ」が好きですし、物体であったほうがいい。なので、文庫本より単行本のほうが僕は好きです。
――その感じ、よくわかります。装丁とか遊べるんですよね。紙も変えられるし。
是枝 そうですね。アルバムのジャケットとかといっしょですよね。CDになってなかなか遊べなくなっていると思うんですけど。単行本のほうが僕は好きです。
――映画と小説の向き合い方に差はありますか?小説のなかに出てきている彼らと、映画のなかの彼らは同一なのでしょうか?
是枝
自分のなかの作業としては、一度脚本のかたちで自分がつくりだした役柄を映画にする過程で僕と役者の間につくっていき、共有していくものなのですが、小説を書くのは、もう一度自分のなかに取り戻していく感じなんです。でも自分自身じゃないですよ、やっぱりそこは。
もうちょっと身近に引き寄せますけど、同一化するわけではないので、取り戻す感じです。それぞれ、その感覚の違いしかないですよ。正直にいうと。あんまり小説にしたからといって内面の記述だけで何ページもいらないので、そこは……そんなに差はないかな。
――小説を書いていて、「この人は映画より深まった」「映画の時よりもこの人本当はこうだったな」などと思うようになったキャラクターはいますか?
是枝 今回ですか? 深まった……、うーん……信代はそうだよね、やっぱり。でもそれは、僕が最初に脚本で書いていたものよりも圧倒的に安藤サクラ(さん)が膨らましてくれたから。膨らましてくれたおかげで僕がより深まっているという感じですね。それはそこでのキャッチボールなんですよね。
――脚本→映画→小説の順になっているからこその、この小説の内容ということですね。
そして、やっぱりみなさん感想でも「安藤サクラやばい」っておっしゃってますね……。
是枝 やばい(笑)。
――あと松岡(茉優)さんについての感想もわりと多いですよね。
是枝 そうですね。特に若い人はね。
――「泣いたシーンは全部松岡茉優のシーン」という感想もありました。
是枝 カンヌで上映してても、松岡茉優(さん)のシーンになるとみんな咳をしなくなるんですよ。まぁ、あのちょっとエロいっていうのもあるんですけど、やっぱりみんな息をのんでましたね。
――小説版でどこか好きなところとかありますでしょうか。小説で書いた記述で「ああ、あそこはうまく書けたなあ」というところなどありますか?
是枝 (本を見ながら)うーん……そうね、ラストですかね。ラスト、何度も直したもんね。
――映画と小説は、どちらを先に見たほうがいいでしょうか。
是枝 このあいだツイッターでも書いたのですが、映画→小説→そして再び映画を観る、がベストだと思います。
――感じるままに映画を観て、そのあと考えながら、咀嚼しながら小説を読んで……そしてもう一度映画にいく、という感じですね。
是枝 本当はね、たぶん一度目で観ただけでは気づかないことに(小説で)気づいてもらって、二度目を観ていただくのがいいんじゃないかと思います。
――小説で明らかになる部分については、何か意図や理由があるのでしょうか。
是枝
映画と小説は、ある種別の作品だからね。
映画は逆に気持ちの説明をいっさいしないので、基本的には。モノローグもないですし、気持ちを描くものではないので。なので、せっかく書くならと、ちょっと気持ちの描写も書いてみました。でも小説でも、余白はずいぶん残しているつもりなんです。
――そうですよね。けっこう書かれたけど、削られたところなどもありましたよね。なにかルールのようなものがあるのでしょうか。
是枝
えー……もう感覚です。自分で「恥ずかしくない」とこまで。
勢いで書けちゃったところはおもしろいんですけど、後で読んだ時に、書きすぎちゃっているところがあるから、そこだけ削るんですけど、勢いは削がないほうがいいんですよ。なんとなく、考えずにバーッて書けるシーンがあるから、そこの勢いは削がずに、「恥ずかしさ」だけ削っていく、っていう感じですね。やってる作業としては。
――なるほど。
是枝 もう一回推敲したらもうちょっと削ると思いますけど(笑)。
――正直、今のくらいが「いっぱい小説でサービスしてもらってるな」って思います(笑)。
是枝 ちょっと優しい感じですよね(笑)。
――執筆中の秘話などはありますか?
是枝 うーん……あまり寝ずに書いたことくらいですかね。
――原稿は主にどこで書いていらしたんですか?
是枝 今回は、事務所。部屋のテーブルで。あそこがほとんどですね。
――やっぱり落ちつくんですか?
是枝 本当は移動しているほうがいいんですよ。ホテルとか、移動の電車のなかとか飛行機がいいんです。
――飛行機で書くんですか?
是枝 書きますよ。今回も書いたかな。
――飛行機のなかであんなに精緻な字をお書きになられるんですね。すごいですね……
是枝 飛行機はね……いいんですよね。飛行機がいちばんいいですね。
――独立空間になるからですか?
是枝 うん。あと逃げられないし。
――「飛行機みたいな部屋」がいいんですかね?
是枝 でもやっぱり飛行機じゃないとダメなんですよ。移動をしているほうがいいです。
――「歩いても 歩いても」以来のご自身による書き下ろしと考えた時に、今回の執筆は少し時間が空いておりますが、「書く」という行為について監督はどういう風にお考えでしょうか。
是枝 書くのは好きです。
――映画を撮るのとどっちが好きですか?
是枝 うーん(笑)。全然違う作業なので、書くのはどうやったって個人作業なので、映画は自分を開いていかなくちゃいけないから。どっちが向いてるかといわれたら、書くほうが向いているんですけど、ただ、そんな小説家になれるほどではないので……。でも書くのは好きですね。
――書く作業って、脚本も同様なのかもしれないですが、自分を開くためのキッカケみたいになっているということでしょうか?
是枝 書くほうは、自分のなかを探る感じですね。撮るほうは外なんで。向いているベクトルが全然違いますね。
――撮るほうは外、というと……
是枝 目の前の空間と役者に自分を開いていくものなので。
――そこに対して自分が持っているものをどう当て込んでいくかっていくということでしょうか?
是枝 いや、むしろそこを観察しながらつくっていきます。書くのはどうしても内に向かっていくんですけどね。
――さっきおっしゃっていた「一回映画を撮って自分に取り戻す」っていうのは、撮って、観察して、自分のなかに観察したものがかたちになって入って、それをもう一度どういうふうに観察していたかを思い出して書くということなんでしょうか?
是枝
難しいな……うまくいえないな。
撮っている時はそんなに言語化していないので、むしろ言語化できないものがたくさんあるほうがいいんですよ。それを作業としては、もう一回文字に戻さなくてはいけないので。
小説は映画ではないので、言語化していいんです。
――映画は、言語化してはダメなんですね。
是枝 映画は、言語化できないものにあふれていたほうが豊かだと思います。難しいですよ。あの安藤サクラ(さん)をどうやったって言語化できないですもん。あの感じは。
――あの演技があってからのこの小説なんですよね。
是枝 そうですそうです。
――この家族のなかに監督はいるんですか?
是枝 いないです。外から見てます。
――今回の「柴田家」の人々に対して、「より愛が深まった」など、見つめなおして想いや考え方に、執筆しながら何か変化はありましたでしょうか。
是枝 うーん……(柴田家の人々に対して)変化はないですよ。そんなに。それはいっちゃうと嘘になるなあ。
――映画を観た後に「咀嚼できなかった部分を答え合わせのように、確かめるために読む」という意味での本の読み方は正しいのでしょうか。
是枝 そういう読者さんがいても全然かまわないです。
――どうやって読んでほしいですか?
是枝
別に全然(どんな読み方でも)かまわないです。
「こうしてほしい」っていうのは、映画を観る時にもいっさい、いったことがないので。「こう観てほしい」とか、「こういう人たちに観てほしい」という限定の仕方は、いっさいしていないですね。映画は。だから本もいっさいしないでおこうと思っています。
自分が見たり読んだ時に限定されるのが嫌なので。
――ありがとうございました。
映画公開後も、小説大ヒット中!
そんな小説『万引き家族』ですが、なんと、発売から2週間足らずで、驚異の4刷重版&累計発行部数が13万部を突破!!!
『万引き家族』
是枝裕和 宝島社 ¥1300+税
(2018年5月28日発売)
発売後も紀伊國屋書店梅田本店や三省堂書店池袋本店など多数の書店でランキング1位を獲得し、すでに手に入れていただいた読者のみなさんから、TwitterなどのSNSで「映画と同じく終盤がヤバい!」「読み終わったあとに恋しくなって、また後で読み返してしまいそう……」などの声を続々といただいています!
小説『万引き家族』では、映画では描かれていない登場人物たちの過去や、ひとつ屋根の下で暮らす家族たちの、複雑に絡み合う想いや「声にならない声」が明らかになります。
また、題字とイラストはミロコマチコ氏、装丁は大島依提亜氏と、第一線で活躍するクリエイターが担当。
じつは、表紙のビー玉のイラストにもある秘密が! ぜひチェックしてみてください!
映画鑑賞前はもちろん、鑑賞後に読むとより作品のメッセージに向き合える一冊になっており、映画を観終わった後、この本で余韻に浸り、噛みしめながら読むことを強くオススメします!!!
是枝監督最新作『万引き家族』絶賛上映中!!!
6月8日(金)より、全国300館以上で、『万引き家族』が上映中!
「10年くらい自分なりに考えて来たことを全部この作品に込めようと、そんな覚悟で臨みました」と語る是枝監督が本作で描く、「家族を超えた絆」とは―――?
「誰も知らない」や「そして父になる」をきっかけに是枝作品に魅了されたファンの方はもちろん、パルムドール受賞で大きな話題を呼び、「どんな作品なんだろう?」と気になっている方は、ぜひスクリーンでご覧いただくことをおススメします!
公開劇場一覧はコチラ!!!
気になる「万引き家族」のストーリーは?
さらに、今回のパルムドール受賞をうけて、劇場の公開館数が300館以上に拡大&海外の149の国と地域に販売が決定!
いったいどんなストーリーかというと……
<STORY>
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、柴田治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)の4人が暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である祖母の初枝(樹木希林)の年金だ。
足りない生活品は、万引きで手に入れていた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、口は悪いが仲良く暮らしていた。
冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子・じゅり(佐々木みゆ)を見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。
だが、ある事件をきっかけに、家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく―――。
映画では語りつくせなかった「家族を超えた絆」を、ぜひ本でたしかめてください!