だれにも邪魔されず、人を気にすることなく、好きなように食べる自由を謳歌するためには、店選びにも慎重になる。
そう、本作がそのほかのグルメマンガと異なっているのは、メニューのみならず店の雰囲気も重視されているところかもしれない。
細かいことでいえば、タバスコのビンがでっかいとか、ビンのコーラを自分で注ぐとか。小さなことにもこれこれ、とうなずく五郎に共感してしまう。
五郎が足を踏みいれるのは、決まって庶民的な店だ。といっても傾向はバラバラ。
食べたことのないペルー料理に挑戦したり、下戸だけど様子をうかがいつつ飲み屋っぽい店に入ってみたり。
店主やお客さんを観察しつつ、注文の組みあわせを思案する五郎の横顔からは最高のワクワクが伝わってくる。
何しろ初めての店だから、頼んだものが来てみたら味つけや食材がかぶっていたとか、想像以上のボリュームに降参することも。でも、それも含めてアウェイな店での賭け、小さな冒険といったおもむきを感じるのだ。
情報に頼らず気分に合った店を見つけだし、申し分のない注文をし、おなかいっぱい食べる。この一連に、個人の美学が集約されている!
作中に登場するお店には実在のモデルがあるけれど……筆者としてはそこを探し出すよりも、五郎のように自分のカンで“ちょっといいお店”にたどり着きたい気持ちにかられるのだ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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