さて、よつばや父ちゃんと違い、読者にとっては「はじめまして」のお婆様。
スラッとした長身で白髪のショートカット。着る物もオシャレで立ち姿もりりしい。
なかなかインパクトのある登場シーンである。
ばーちゃんはさっそく散らかりまくった小岩井家をかたづけ、おいしい味噌汁をふるまい、鮮やかな手つきで折り紙を披露する。
よつばにとっては、やることなすことすべてがリスペクト。
少しずつ見えてくる第1話以前の、よつばの日々。彼女のボキャブラリーのどれほどが、ばーちゃんから吸収したものかがうかがい知れる。ただし、ばーちゃんの滞在期間は3日だけ。
よつばに合わせた低い位置からの視点誘導、考え抜かれたアングルと動画的コマ運びも健在だ。
この域までくると、たとえセリフの意味を解さない外国人でも、ページを開いた瞬間に紫陽花市の住人となって楽しめるはず。「これぞマンガ表現の極北!」と言っても過言ではないだろう。
連載開始から12年。よつばの世界も、ようやく冬の声が聴こえてきた。
ばーちゃんに買ってもらったコートを身にまとい、よつばが新しい季節を存分に楽しむ日々が届くのを、気長に待つことにしよう。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしているライター。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。