「制服がモンペにゲートル地下足袋」「雪の結晶が草加せんべい」など、次々に繰り出される埼玉差別ネタは、脱力&爆笑必至!
アホらしくも凄まじい埼玉迫害と抵抗のドラマに、美少年愛が絶妙に絡んだ「妙味」は、魔夜先生にしか出せないもので、読めば読むほどクセになる。
単行本あとがきによると、本作が生まれた背景には、魔夜先生が新潟から上京する際、埼玉の所沢に住む編集者に騙されて東京ではなく所沢に引っ越し、一種の軟禁状態を味わったことへの複雑な思いがあったというが、これぞ「ケンミンショー」の先駆というか。魔夜先生の屈折した「埼玉愛」を感じずにいられない。
考えてみれば、あのタモリが「ダ埼玉」というネタを使用し始めたのも、同じ80年代前半。
当時、急速に小綺麗なニュータウン化しつつあった埼玉に対して、多くの人が大学デビューした幼なじみをおちょくるような気持ちを抱いていたのかも……と妄想してみる。
本作収録の3話分を執筆した時点で、魔夜先生が横浜に「脱出」したため、謎の埼玉県民・埼玉デュークの正体などが回収されないまま、宙に浮いた状態となっている『翔んで埼玉』。
今回の復刻を機に、魔夜先生にはぜひとも期間限定でいいので埼玉に戻って、作品を完成させていただきたいと、せつに願わずにいられません……!
『翔んで埼玉』著者の魔夜峰央先生から、コメントをいただきました!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
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