『日出処の天子』の超能力をもつ厩戸王子、『青青(あお)の時代』の巫女、『汐の声』のニセ霊感少女まで……。
これまでにも山岸凉子は、様々なかたちで「見えざるもの見る」幻視者たちを描いてきた。
彼らの多くは抑圧された環境や歪んだ親子関係下にあり、潜在的な苦悩やコンプレックスを抱え、やがて特種な能力と引き換えに、何かを犠牲にしたり、数奇な運命をたどることになる。
本作でもまた、野盗の襲撃、政略結婚で嫁いだ姉の不幸な死など、過酷なジャンヌの少女時代が暗示的に描かれてゆくが、それらははたして彼女の神秘体験の要因だったのか? 彼女の聞いた「神の声」とは、いったいなんだったのか――?
山岸凉子ならではの解釈に期待が募る。
単行本のオビに「果たしてこの世に正しい戦争というものはあるのか――。」とあるように、本作は「正しさ(善きこと)とは何か?」を問う物語でもある。
「正義」という名の侵略や「聖戦」という名のテロが人々を脅かす今だからこそ、神を信じ、母国のために生涯を捧げたひとりの女性の一生を、山岸凉子がどう描くのか、目が離せない!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
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