ギャグとは「斜め上」だ。
カッコいいやつがひどい目に会う、美少女が下品な行いをする。予想の斜め上をゆく努力で消耗するから、ギャグ漫画家の作家生命は短いし、ときに長期休載したりもする。
だもんで最近は、ゆるやかな人情話を織り交ぜて、エンジンをいたわりつつペース配分するもの。
だが、このマンガはそこでブレーキを踏まず、毎回がフルスロットル。
かわいいヒロインのヤリマンが剣マンを、背を向けて油断したからと刺し殺す。峰打ちでも急所を外すでもなくマジぶっ殺す。ギャグマンガなのに!
「手マンとやれる! うおお燃えてきたー!」
セリフはサイテーすぎるけど、実際のマンガはいやらしくない。
性的な目を向けられるだけで恥じらう乙女が「手マン」だの「マン臭」(○○マン達が発する気配のようなもの)だのと元気いっぱいに叫ぶギャップ。
それでいて清楚と下品が絶妙なバランスで、どちらにも傾かない綱引きが神の域。
手マンも悪代官に貞操帯を着けたり、端本少年を彼氏にしようと「手マン予約済」の紙を尻に貼ったり、見かけどおりでギャップはなくて普通にヒドい。
電子版ジャンプ「ジャンプ+」という受け皿があってラッキーだった。
「週刊少年ジャンプ」本誌でやるには刺激が強すぎ、「週刊ヤングジャンプ」で連載するにしては絵柄が少年誌チック。次元の狭間にあるマンガがやりたい放題やるためには、紙の鎖から解き放たれたデジタル空間がなくてはならなかった。
むさ苦しいオッサン系○○マンはどこかの最強トーナメントマンガの格闘家を思わせ、ヤリマンのお祖父さんは恍惚として(尿を漏らすと「はわわ」と幼女化)槍よりも秘剣を使ったほうが強そう……そんな出版社を超えた作風も含めてギリギリさを楽しめる、今もっとも尖ったギャグマンガなのだ。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。