複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「47都道府県の男女人口比が発表される」について。
『ヘタコイ』第1巻
中野純子 集英社 ¥505+税
(2007年10月17日発売)
嫁がほしけりゃ九州へ行けッ!!!!!
なんと九州では“女余り”が深刻化しているというのだ。
発端となったのは「週刊ダイヤモンド」(株式会社ダイヤモンド社)3月26日号の記事である。都道府県別の女性人口の対男性人口比がグラフで紹介されると、九州の各県が軒並み上位にランクイン!
1位長崎県、2位鹿児島県、5位宮崎県、8位熊本県、10位佐賀県、13位福岡県、14位大分県と、九州の全県で女性人口が男性人口よりも10パーセント以上多かったのである(2015年の国勢調査に基づく)。
この記事が公表されると、ネット上は大騒然。
「だから俺はモテないのか」とか「ちょっと九州へ引っ越してくる」など、様々な反応が見てとれた。そこへ行けばどんな夢も叶うというような、さながら「九州=ガンダーラ」幻想が散見したのである。
現実問題として、人口減少や婚姻率の低下に頭を悩ます自治体の首長としては、なんとかして男(できれば若くて独身)を呼びこみたいのが本音ではないだろうか。
だが悩む必要はない。
困ったときこそマンガを頼れ!
マンガで各県の長所をアピールして、男性を呼びこめばいいじゃない!
九州の自治体のみなさん、マンガで町おこしですよッ!!
といったわけで、今回は女性人口の対男性人口比ランキングの順に、九州が舞台のマンガを大特集する。
『坂道のアポロン』第1巻
小玉ユキ 小学館 ¥400+税
(2008年4月25日発売)
まずは1位長崎県。
小玉ユキ『坂道のアポロン』は長崎県佐世保市が舞台である。
『このマンガがすごい!2009』オンナ編では1位に輝き、2012年にはフジテレビ系列でテレビアニメ化もされた人気作なので、ご存じの方も多いだろう。
主人公の西見薫は横須賀から佐世保へと引っ越してきて、転校先で川渕千太郎と出会う。そして千太郎に触発され、ジャズの世界へと足を踏み入れていく。
時代背景は1966年と半世紀も前なので、「バンカラ」や「レコード屋」「学生運動」など、懐かしい単語やシチュエーションが出てくる。
ヒロインの迎律子は千太郎の幼なじみで、そばかす顔がチャーミング。世話焼きなタイプなので、そりゃあ律ちゃんみたいな娘と出会えるなら、よかもんねぇ。
『行け!!南国アイスホッケー部』第1巻
久米田康治 小学館 ¥379+税
(1992年2月発売)
第2位は鹿児島県。
『行け!!南国アイスホッケー部』は、 久米田康治 の出世作ともいえるギャグマンガだ。
カナダからの帰国子女でアイスホッケーの有名選手の蘭堂月斗が、理事長の道楽でアイスホッケー部が作られた南国・鹿児島の高校に転入してくる……という初期設定は、わりと早い段階で置き去りにされて、『かってに改蔵』、『さよなら絶望先生』にも共通する1話完結スタイルの“久米田節”へと徐々にシフトしていく。
最初の頃は、がんばって鹿児島弁なんかも使っているところがほほえましい。今読めば、“久米田節”が形成されていく過程が楽しめるだろう。
メインヒロインはアイスホッケー部マネージャーの岡本そあら。
本作のツッコミ役として、ボケや小ネタを的確に拾ってくれる。
こげんな娘がそがらしおっとなら安心じゃっどな。
『新装版 ひまわりっ ~健一レジェンド~』第1巻
東村アキコ 講談社 ¥520+税
(2006年5月23日発売)
第5位は宮崎県。
東村アキコ『ひまわりっ ~健一レジェンド~』は宮崎県出身の作者が、自身の経験を交えながら描いたフィクション。
美大卒業後、父が勤める「南九州テレホン」に就職した主人公・林アキコは、亡き恩師の美術教室を受け継いで、漫画家デビューを目指す。背景に描かれた植物が、宮崎の南国ムードを盛り上げている。
『このマンガがすごい!』本誌にて3年連続でランクインした著者の自伝的作品『かくかくしかじか』(2013年5位、2014年5位、2015年7位。いずれもオンナ編)と併読すると、クロスオーバーする箇所もあって、より物語が立体的になるのではないだろうか。
『ひまわりっ ~健一レジェンド~』は父・健一をはじめ、蛯原&副主任のコンビ、南国グリーンサービスの興梠(こおろぎ)健一、そして三国志BLの大御所・ウイング関先生など、キテレツなキャラが次々と出てきて、さながら「変人博覧会」のような様相を呈す。
『かくかくしかじか』に著者が描くところによると、宮崎人気質とは「お人好し」。そんな土地柄だから、いきなり飛びこんでいっても、周囲が「どげんかせんといかん」と構ってくれるかも?
『新装版 DAN DOH!!』第1巻
坂田信弘(作) 万乗大智(画) 小学館 ¥390+税
(2004年3月発売)
第8位は熊本県。
『DAN DOH!!』は熊本出身のプロゴルファー坂田信弘が原作を務めたゴルフマンガ。
熊本市に住む青葉弾道は、ひょんなことからゴルフの魅力に目覚め、プロゴルファーを目指すことになる。
小学校の校長から「サルスベリの木から削られたクラブ」を教えられた弾道は、サルスベリを調べるために熊本市の水前寺にある図書館へ行き、そこで運命の師匠・新庄樹靖と出会うことに。
ヒロインは同級生の砂田優香。両親の転勤を契機に弾道の家に居候するようになり、弾道とともに新庄からゴルフを学ぶ。
弾道への好き好きアピールが積極的で、さすがは火の国の女ばい。
『がばい -佐賀のがばいばあちゃん-』第1巻
島田洋七(作) 石川サブロウ(画) 集英社 ¥505+税
(2006年4月19日発売)
第10位は佐賀県。
やはり佐賀といったら、がばいばあちゃんが一番有名だろう。
『がばい -佐賀のがばいばあちゃん-』は島田洋七の小説『佐賀のがばいばあちゃん』のコミカライズ作品だ。
物語は原作同様、明広少年が佐賀に住む祖母の家に預けられるところから始まる。
ばあちゃんとの暮らしは絵に描いたような貧乏生活で、決して楽ではないものの、“がばい”ばあちゃんのタフで明るい性格によって明るい毎日を送っていく。
……まあ、ばあちゃんしかいない県だったら困りものだけど、さすがにそんなことはないハズ。
明るく快活な娘さんがいる「エス・エー・ジー・エー」へレッツゴー。
『クッキングパパ』第1巻
うえやまとち 講談社 ¥524+税
(1986年1月14日発売)
第13位は福岡県。
福岡を舞台とした作品は数多いが、その代表格といえば、もちろん『クッキングパパ』(うえやまとち)である。現在も講談社「モーニング」で連載中だ。
主人公の荒岩一味は、福岡の金丸産業に務めるサラリーマン。ガッツリと突き出たアゴが特徴的で、料理の腕前はプロ級である。
連載開始当初に小学生だった一味の長男まことも、現在では大学を卒業して大阪で就職するまでに成長した。
荒岩一家のアットホームな交流が物語の中心軸となっているが、じつは第1巻では部下の夢子からかなり濃厚なアプローチを受けるエピソードも。
「おおおお不倫かよオイ!」と盛り上がってしまうところだが、そこは男・荒岩。相手に恥をかかせることなく、スマートにフェイドアウトしていく。
同じ雑誌に連載しているマンガであっても、福岡時代に「チャコママ」のバーに足繁く通いまくった島耕作とは大違いだ。まあ、それはそれで彼の甲斐性なんだろうけど……。
『あぶさん』(水島新司)に出てくる女子アナ・財津珠代も、あぶさんの子種をもらうことが目標であると公言したり、やっぱり九州のオナゴは積極的ばい。
『みんな!エスパーだよ!』第1巻
若杉公徳 講談社 ¥562+税
(2010年7月29日発売)
第14位は大分県。
若杉公徳『みんな!エスパーだよ!』は、大分県野津町に超能力者が大量発生する物語だ。作品の随所に「吉四六の里」のオブジェが出てくるのが印象的である。
主人公の嘉郎は、ある日突然テレパシーの能力に目覚める。そして、同じように超能力を持った者が同じ町にいることに気づくが、出会う者がことごとく能力を変態行為に用いる猛者ばかり。
そのなかで嘉郎は、どうにかして「社会のため、人のため」に使おうと試行錯誤する。
最初は下ネタ満載のギャグ展開だけど、途中から物語にドライブがかかって、すごいことになるからっ!
本作のメインヒロインは、嘉郎が思いを寄せる浅見紗英。清楚な外見とは裏腹に、腹黒い一面を持つ。
テレビドラマ版では真野恵里菜が演じた。「堕天使エリー」(アルバム『MORE FRIENDS』収録)で真野ちゃんの二面性を見抜いていた真野フレ(真野ちゃんのフレンド=ファン)たちはご褒美です、とばかりに悶絶したかもしれないけど、紗英は東京からの転校生なのでここでは除外。
嘉郎の1年後輩で、やはり能力者となる美由紀に注目したい。ヤンキー気質でケンカっ早いものの、腹黒な紗英に惚れている嘉郎を気づかうあたりは、情に厚い九州女性の心根なのかもしれない。しんけんかわいいっち。
さて、これまで九州のマンガを見てきたが、肝心な情報をひとつ付け足しておこう。
そもそもの問題として日本の人口性比(女性100人に対する男性の数)は、戦後は一貫して100を下回り続けている。2015年の国勢調査では94.7と、終戦直後の1945年に次ぐ低さだった。つまり日本は、程度の差こそあれど、九州に限らず全国的に「女余り」の状態なのである。
だから、いまおまえらがモテていないのは男女の人口差が理由なのではなく、もっと根本的な理由があってだな……、まあ、その、なんだ。
マンガでも読んで元気だそうぜ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama