荒川父をはじめとする、おおらかで破天荒な人々の生態も興味深く、痛快きわまりない。
もちろん、その背景にはとてもじゃないが笑い飛ばさなければやっていけない北海道農家のハードな現実があるのだろうが、北海道って日本にして日本ではないというか、やっぱりスケールが違う!と感じずにいられない。
そんな開拓精神つながりで、本巻では、まさかの火星移住ネタも。
いくらなんでも、火星はムリでしょ! とツッコミつつ、なにかあったときにサバイブできるのはお金や武力を持った者ではなく、食料を自産できる農民なのかも……と思ったり。
『銀の匙 -Silver Spoon-』に比べると、こちらは実録エッセイということもあり、生き物を殺さずには生きていけない人間の業がよりシンプルに、アッケラカンと描かれている。
いくら文明が進化しようとも変わらない、人間の営みや世界のしくみにあらためて思いをはせれば、日々の食事はもちろん、今ここに自分が存在することへの感謝がごく自然にふつふつとわきあがってくる。
「働かざるもの食うべからず」「俺にできる事はおまえにもできる」といった荒川家の家訓は、人間としてごくごく当たり前のものだが、生産の現場と人々の生活が隔離された現代には、つい忘れがちなことでもある。
そんな「人間力」をはぐくむために、大人はもちろん、子どもにも読ませたいシリーズだ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
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