喧噪の渋谷駅から、歩くこと数分。同じ街とは思えない閑静な場所に、書店・SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSはある。
膨大な本を抱える大型店や、マニアックな本が並ぶ専門店、検索して購入するネット書店では提供できない、「自分に合った本との出会い」を追求すべくセレクトされた本は、どれもこだわりの品ばかり。店内でクリエイターによるワークショップを開催するなど、本に強い関心のある人々が集まるこの書店では、どんなマンガが人気なのか。
ドラマティックで非日常的な展開でなくても、普段の自分の暮らしのなかに物語はある。読後に、自分の居場所を見つけられるようなホッとする内容の話題作をコミック担当の粕川ゆきさんに伺った。
SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS オススメの3作!!
『喰う寝るふたり住むふたり』第3巻 日暮キノコ
\562+税 徳間書店
(2014年2月20日発売)
NHK BSプレミアムでテレビドラマ化もされた本作。当店ではマンガにかぎらず、店内全体でライフスタイル誌が人気なのですが、その流れもあってか常に売れ続けています。
当店のお客様層と登場人物の年代が近いこともあり、男女問わず購入されていく方があとをたちません。
本作は、同棲生活8年目のアラサーカップルの日常を男女両方の視点で交互に追っていくという、新感覚の作品です。ひとつのエピソードを男性視点・女性視点の2部構成で進めていくため、女性視点では詳しく描かれなかった内容が、男性視点で読むことで理解できた! ということも。
付き合いは長くても起こる“男女のすれ違い”や“お互いを思いやる気持ち”に共感し、最後にはあたたかい気持ちにさせられます。
3巻発売と同時に『なないろ胞子 日暮キノコ短編集』という日暮キノコ先生の7つの作品がまとめられたマンガも発売されました。なんと、こちらには本作の特別編「禁煙」が収録されています。あわせてお楽しみください。
こういったストーリー自体に大きな展開があまりない、日常系のほのぼのマンガは、当店ではとくに人気があります。 少しイラストにクセがありますが、人魚の女の子を育てるおじいさんのお話『アキンボー』も、そういったジャンルが好きな方にはぜひおすすめしたいです。 ほのぼのした登場人物たちに癒されること間違いなし。シュールでたまに顔が恐い人魚の女の子がとてもおかしいので、注目してみてください。
『夜よる傍に』 森泉岳土
\720+税 KADOKAWA/エンターブレイン
(2014年6月25日発売)
当店ではクリエイターの方に多くご利用いただいているということもあり、有名無名問わず少し変わった作風のものや珍しい技法をとりいれた作品などは人気があります。
『夜よる傍に』は、その独特の作画がとにかくすごい。森泉岳土先生の描く絵は、水と墨を落として、割り箸や爪楊枝を用いて描かれているそうで、マンガ表現としても新鮮な印象を受けました。 もちろん、表現技法だけでなく内容も秀逸です。転落事故をきっかけに眠ることのできなくなった主人公と、同じくあることをきっかけに夜だけしか目が見えなくなった少女が“おもいでの絵本”を探す、という物語。 独特の墨のタッチで表現された夜の暗さや、やわらかさ、優しさがとても印象的で、読んでいて自分が絵本のなかに吸い込まれたような錯覚に陥ります。
また、こういったクリエイターの方にとくに人気があるのが西村ツチカ先生です。
初の連載作品『さよーならみなさん』は、日常的(なのに奇抜な展開!)でほっこりする不思議なストーリーが大人気で、当店では売れ続けています。
『彼女のカーブ』 ウラモトユウコ
\952+税 太田出版
(2014年2月12日発売)
ほくろ、薬指、まつげ、二の腕……など、女の子のパーツをテーマにするという発想がおもしろい本作。 絵がかろやかでとても読みやすく、女性っぽいイラストですが、男性にもとても人気があります。
小さな胸にコンプレックスをもつ女の子の話や、理想の脚を追い求める男の子の話など、様々なエピソードがつまったオムニバス作品集です。女の子のパーツに焦点をあてているというと、少しエッチなイメージがあるかもしれませんが、読後感はとてもさわやか。「女の子ってやっぱりかわいい!」と思える一冊です。
また、女の子のコンプレックスや思春期の心情を描いた作品で、ぜひ紹介したいのが『ぷらせぼくらぶ』。 あの子は“あっち側の人間”、私と親友は“こっち側の人間”、というスクールカースト的なものにモヤモヤする女子中学生たちを描いた連作短編集です。
懐かしさに「あるある」と共感しつつも、親友がいつの間にか“あっち側の人間”になっていたと思い悩む主人公の姿には胸が熱くなります。私はこれ読んで、泣きました。
有名人のあいだでも話題らしく、伊賀大介さんやしまおまほさんも絶賛されているとのこと。
私も個人的に友人におすすめしまくった一冊です。
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