過食時代のエピソードも壮絶だが、彼女が心の声に耳を傾け、ヒントがあると思える本を読みあさり、とことん自己分析することで、抑圧していた本心を直視してゆくくだりは圧巻。
「だれでもいいから抱きしめられて、安心したい!(できれば女の人に)」という、簡単なようで実際は難しかったりもする思いを叶えるため、さらに試行錯誤を重ね、ようやく冒頭のシーンへと至るわけだが、現実はそう簡単にはいかず――。
不完全燃焼な思いを抱えたまま、人生初の大冒険を終えた彼女が、意外に落ちこむことなく、むしろ前向きに自己分析を重ね、さらなるステップへと進んでゆく姿には、勇気を持って一歩を踏みだした経験だけが人を変えることができるのだ! と気づかされる。
この体験をマンガで発表し、大きなリアクションを得たことで、彼女が人生において初めて味わうことができた「甘い蜜」。
それはきっとだれにだって必要なもので、それによって満たされた記憶がひとつでもあれば、どんな困難も乗り越えられる「力」となりうるもの。
もちろん、ここまで痛々しい思いをしなくても、漠然とした不安や孤独から目を背けて、表面的に楽しく要領よく、対人関係をこなしてゆく生き方もあるだろう。
しかし、世の中には彼女のようにそれがムリな人もいるし、一度「蜜の味」を知った人ならば、そんな人生はやっぱり空しいと感じるはずだ。
だからこそ、まだまだ前途多難ながらも「自分の道」を発見した彼女には、レズ風俗のお姉さんやパン屋のお兄さん同様、「まだこれからだよ、がんばれ!」とエールを送りたくなる。
“自分は問題ない”つもりの人も、いま一度、心の声に耳を傾けてみれば、今よりずっとストレスなく生きられるはずだ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
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