入学早々、たった17人の女子サッカー部(2チームぶんに満たない!)では紅白戦が行われるが、グラウンドで躍動する彼女たちの姿の美しいこと。サッカーにくわしい読者には言わずもがなだが、ゴール前にボールを運ぶということには想像を絶する複雑な“情報”と“技術”が肝要。敵陣の選手の動きを読み、裏をかき、一瞬で状況判断しながら味方にボールをつなぐ。
その難しさとおもしろさを切りとって魅せる画面には、単なる紅白戦だというのに否応なくワクワクさせられる。
しかし、紅白戦のシーンでさらにもうひとり、作品において重要なキャラクターが登場するとは予想外だった。
緑、すみれと同じ新1年生の恩田希(おんだ・のぞみ)……彼女こそは、『四月は君の嘘』の前に発表された『さよならフットボール』(全2巻)のヒロインなのである。
こちらを未読の方は、本作2巻を待つ間にぜひ『さよなら~』を読んでおくべき!
中学時代、男子サッカー部に在籍していた希の過去を知ればおもしろさは倍増、作者が“女子サッカー”を描く情熱がビシビシ伝わってくるはずだ。一見やる気のなさそうな監督が口にする
「女子サッカーに未来はあるのか?」
の答えを、作者は本作で見せてくれるだろう。
希はとにかくチームメイトを活かすことに長けた司令塔。中学時代、チーム内で“ひとりぼっち”だったすみれは、この紅白戦で希のプレイに刺激を受け……彼女のなかで何かが目覚める!
得意なプレイや考え方は個々に違う。だからこそ、このメンバーでしかできないサッカーがある!
それぞれにクセのありそうな蕨青南高校女子サッカー部の面々がこれからどんなチームになっていくのか期待が高まる。
チームの面々が理解しあい、一丸となるまでには時間が必要。
青春ストーリーの名手がつむぎだす群像劇のなか、グラウンドの外でも多くの名シーン・名セリフが生まれるに違いない。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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