なんといっても2巻のヤマ場は、美都と涼太の結婚一周年記念のディナーの場面。小ジャレたレストランでシャンパンを開けて乾杯したあとの衝撃展開たるや! 涼太は冷静そのもの、けっして怒鳴ったりキレたりすることはしない。自分が男としての魅力に欠けることも、美都の性格や考えも把握しきっていて……そういう人間の本質的な強さにちょっと圧倒されてしまう。
有島はというと、家では生まれたばかりの赤ちゃんにはメロメロで良きパパ馬鹿ぶりを見せているものの、麗華はちょっとしたスキを見のがさない。そんな彼女のカンの鋭さに恐れをなし、有島もいまやおよび腰……。
不倫の話ってたいがいは「こんないい夫(妻)がいるのに浮気するなんてひどい」と憤慨したり、あるいはもっと無責任に「いっそ離婚しちゃって、新しい幸せに踏み出して!」なんて思いながら読むものだが、本作はそういうメロドラマテイック気分にやすやすと浸らせない歯ごたえが魅力。
4人の人間像、個々の人生観や思惑が一挙手一投足に表れていて、だれを応援したいというような野次馬根性を超越した読み物として成立している。
『あなたのことはそれほど』著者のいくえみ綾先生から、コメントをいただきました!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」