複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「静岡県焼津市のふるさと納税返礼品にグソクムシが登場した件」について。
『大好き! ダイオウグソクムシ【1号たんペーパークラフト付き】』
宝島社 ¥1,000+税
(2014年5月19日発売)
確定申告の時期である。
サラリーマンには縁がないと思う方もいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。サラリーマンだって自治体に寄付をしていれば、「寄付金控除」の申告をすることで、所得控除を受けることができるのだ。
自治体への寄付……なんていうと、なんだか庶民には縁のない話じゃないの? なんてお思いのそこのアナタ! じつはこれが無関係ではないのだ。
だれもが一度は聞いたことのある「ふるさと納税」という制度が、じつはこの「寄付金」に該当するのだ。
そもそも「ふるさと納税」は、「納税」という名前を冠しているが、その実態は「都道府県や市区町村への寄付」である。
「ふるさと納税」で寄付する金額から2,000円(寄付金の基礎部分)を引いた金額が、翌年の住民税から控除対象となるのだ。どれだけ控除されるかは所得や寄付金額によって異なるので、詳細は各自治体に問い合わせてほしい。
ワンストップの制度を利用すれば、確定申告が不要なので、これまで確定申告をしてこなかったサラリーマンでも利用しやすいだろう。
いずれにせよ、ふるさと納税を利用すれば「来年の税金が安くなる」。
そして寄付の期間は、その年の1月1日から12月31日までとなる。今年の税金が高いと感じたら、年末までに「ふるさと納税」を考えるのも一計だ。なにしろ「ふるさと納税」なら、返礼品として地元の名産品を贈ってくれる自治体もある。
といったわけで、各自治体がどんな返礼品を用意しているのかが気になってくる。ブランド米とか高級和牛とか、すばらしい返礼品がよりどりみどりだ。
なかでも2015年に約35億円もの"納税"額を獲得し、「ふるさと納税界のナンバーワン」に輝いた静岡県焼津市は、とにかくお礼品の種類が豊富!
もともとカツオやマグロの水揚げで知られた港町だけに、さまざまな海産物や海産加工品がリストアップされている。ずわいがにや桜えびはもちろんのこと、ビールのアテに最適なカツオチップスの「バリ勝男クン」など、さすがは焼津といった品ぞろえである。
だが、そのなかに不穏な返礼品がある。
10,000円以上の寄付金に対する返礼品のなかに、なんと「オオグソクムシ」がいるのだッ!
オオグソクムシとは、深海に棲む海生甲殻類の一種であり、見た目は巨大なダンゴムシである。正面から見た姿は映画『エイリアン』(監督リドリー・スコット)に出てくるエイリアンそっくりだ! まさかこんなモノが返礼品になっているとは夢にも思わなかっただろう。
しかもこの返礼品は、クール便で「生きたまま」2匹贈られてくる。注文を受けてから地元の漁師さんが駿河湾で漁を行うので、とてもフレッシュな状態であなたのお宅にコンニチワするのである。そのため食用としてはもちろん、飼育することも可能らしい。
えええ、飼うの? ……いや、そもそも食えるの?
しかし、海生甲殻類だから、エビやカニのような味がするらしい。な、なるほど。
なお、2014年には、三重県鳥羽市の鳥羽水族館で飼育しているダイオウグソクムシが、絶食から6年が経過して話題になった。ダイオウグソクムシとオオグソクムシは別種で、両者のサイズは大きく異なるものの、生態や特徴は似ている。
といったわけで今回は、オオグソクムシとダイオウグソクムシについてマンガで調べていこう。
『深海ランデブー』
ぶきやま 一迅社 ¥680+税
(2016年5月27日発売)
オオグソクムシやダイオウグソクムシは雑食性だ。海底まで落ちてきた魚の死骸などを食べるので、「掃除屋」との異名を取る。
鳥羽水族館の断食ダイオウグソクムシのように小食で飢餓にも強い種だが、基本的には貪欲である。
その生態にスポットを当てた作品が、『深海ランデブー』(ぶきやま)だ。
大学の海洋研究室に大学院生として所属している主人公・二見は、潜水艦に搭乗して深海を調査している最中に、1匹のダイオウグソクムシに一目ぼれしてしまう。
二見の目にはダイオウグソクムシは、まるで少女のように見え、二見は“彼女”とのかけおちを考えるのであった。
いわば「擬人化」的なテイストがあり、あのダンゴムシのようなフォルムを、ふりふりひらひらの甘ロリ系メイド服に仕立て上げているアレンジ力に舌を巻く。
貪欲な“彼女”の食欲が、物語上で大きな意味あいを持つ。異種間での「道ならぬ恋」のラブストーリーを楽しんでいるうちに、ダイオウグソクムシの生態がいつの間にか頭に入っているだろう。
『ろくがく深海生物部』 第1巻
小竹田貴弘 泰文堂 ¥600+税
(2016年3月12日発売)
それにしても、ダイオウグソクムシやグソクムシは、どうやって食べるのだろうか?
深海生物をよく食べる作品なら『ろくがく深海生物部』(小竹田貴弘)に尽きる。
主人公の竹麦朝陽は海が大好きな女子高生。
深海の生物を研究する深海生物部に所属しているので、作中にはさまざまな深海生物が登場する。
基本的にはほんわか日常系コメディだが、深海生物を食べるシーンが多く描かれるところに本作ならではのオリジナリティがある。
リュウグウノツカイを味噌汁にしたり、エチゼンクラゲアイスが出てきたり、『シン・ゴジラ』でゴジラの第二形態のモデルになったラブカを活けづくりにしたり……。
そして第8話では、家庭科部がダイオウグソクムシを調理して、食卓に供するのだ。
どうやらグソクムシは、焼いたり蒸したりして食べるのが一般的らしい。そのあたりもエビやカニと同じようだ。
はたして朝陽たちは、料理されたグソクムシに手を伸ばすことができるのかッ?
『衛府の七人』 第1巻
山口貴由 秋田書店 ¥524+税
(2015年10月20日発売)
さて、グソクムシの「グソク」が何を意味するのかといえば「具足」である。
日本では昔から甲冑や鎧兜のことを「具足」と言い表してきた。とりわけ戦国時代に流行したスタイルの鎧のことを「当世具足」と呼んだ。
「当世」とは「現代風」であり、要するに「当世具足」とは「最新の鎧」という意味だ。そこから転じ、具足とは当世具足のことを指す場合が多い。
その当世具足の代表格といえば、焼津市のおとなり静岡市の久能山東照宮が所蔵する国重要文化財の「金陀美(きんだみ)具足」である。
金箔を使って全身が金色に輝く具足で、徳川家康(当時は松平元康)が桶狭間の合戦の際に着用したと伝えられている。
山口貴由『衛府の七人』には、この金陀美具足が登場。
本作は大坂の陣が終わった直後の時代設定である。徳川政権は豊臣家にまつわる人々を粛清していた。山に隠れ住む化外(けがい)の民の末裔である霧隠谷のカクゴは、真田家臣・兵藤家の娘と知りあい、彼女を追っ手から救うために戦いに身を投じる。
豊臣の血脈を滅ぼし、日本の絶対支配を企む徳川家康は、衛府(えふ)より七つの凶星(まがつぼし)が飛来する悪夢を見て大国難の到来を予感。桶狭間合戦ぶりに「家康所用巨具足金陀美」を身にまとう覚悟を固めるのであった。
この具足をまとうと、身の丈十倍ほどの巨躯と化す、という。
山口貴由らしいケレン味たっぷりのアクションやセリフ回しに、グイグイと引きこまれることは必至だ。
東京都豊島区のサンシャイン水族館では、1月27日から3月5日まで、深海に棲む生物をテーマにした「ゾクゾク深海生物」展を開催中。
ポスターにはグソクムシのイラストが大々的にフィーチャーされており、やはりいまグソクムシがアツイようだ。
興味を持った方、焼津市に「ふるさと納税」してみてはどうだろうかッ!?
いや、まぁ、個人的にはほかの返礼品をオススメしますが……。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama