「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、TVアニメ『亜人ちゃんは語りたい』
1月からアニメ版の放送が開始された『亜人ちゃんは語りたい』が好調だ。いや、好調というよりは「絶好調!!」といってもいいだろう。
まずは本作の基本設定や世界観からおさらいしておこう。
タイトルにある「亜人(デミ)」とは、かつて伝承やおとぎ話で「妖怪」や「魔物」として怖れられた存在。しかしその実在が認められ、人間と同じように生活しているのが本作の世界だ。ちなみに、「デミ」とは亜人の英語(デミ・ヒューマン)に由来する。
主人公の高橋鉄男は、そんな亜人に強く興味を抱く生物教師。しかし、実在するとは言え、当然のことながら"レア"な存在である亜人にはなかなか巡り会えないまま人生を過ごしてきたが、柴崎高等学校で、バンパイアの小鳥遊ひかり、デュラハンの町京子、雪女の日下部雪の3人の女子生徒と、サキュバスである数学教師の佐藤早紀絵という4人もの亜人ちゃんたちに一気に遭遇。そんな彼らの日常を描く学園コメディが本作である。
何よりも特筆しておきたいのは、亜人である彼女たちの描かれ方である。多くの「日常に魔物が紛れ込む」といった物語では、それに起因した事件や騒動が描かれがちだが、ここでは大きな出来事はほとんど起こらない。
それよりスポットが当てられるのは、亜人であるゆえに抱える、人間と少し違った悩みや困りごと。作品のジャンルとしてはコメディではあるものの、特殊な存在である彼女たちを"かわいいキャラクター"として安易に消費することなく、あくまで等身大の存在として描いており、そのスタンスには非常に真摯なものが感じられる。
作中では、社会的には亜人も人間と平等の権利が与えられているのだが、単純に「みんなが優しい社会」では無いのも現実。あからさまに迫害を受けるようなことはなくとも、どこかモヤモヤしたものを日々感じている彼女たちは、まさにタイトルどおり、ただ「語りたい」のである。
そして、それを受け止める高橋先生の立ちふるまいも極めてリアル。時に亜人への興味本位を隠せず、教師としては明らかに失敗といえる行為もやらかすのだが、表面的に「平等」を取りつくろうことはけっしてせず、彼女たちの悩みに正面から向き合いながら、互いに少しずつ成長していくのが、ほほえましい。
さて、そんな繊細な要素も多い作品だが、アニメ版は原作の魅力を絶妙にすくい上げた完成度を見せている。
正直なところ、その繊細さゆえに、アニメ化に関しては不安がないわけではなかった。たとえば、原作の多くの部分を占めるのは会話劇であるだけに、それをアニメ作品としてどう見せるのだろう? ……と、一抹の不安も感じていたのだが、第1話からそれがまったくの杞憂であったことを思い知らされた。
まず、亜人たちを受け止める高橋先生の説得力!
朴訥(ぼくとつ)でいながら頼れる彼のたたずまいこそが、本作の「要石(かなめいし)」であるわけだが、演じる諏訪部順一はさすがの安定感。様々な悩みを抱える亜人たちを包み込むような優しさを感じさせつつ、「天然の人タラシ」とも言われる魅力を、ここぞとばかりの"諏訪部ボイス"のリピートで表現する演出も冴える。
そして、もうひとつの要である「会話の間のとり方」も、じつに的確。単にテンポがいいというだけでなく、第1話でデュラハンである町京子とクラスメイトの会話に見られた、「平等に接しているようでいて、どう見たって普通じゃない部分には触れないように遠慮している」という微妙に気まずい空気の描き方は、アニメだからこその「間」を使った表現のひとつだ。
ほかにも、高橋先生への好意を包み隠さず佐藤先生に打ち明ける町と、じつは思いっきり高橋先生に惹かれている佐藤先生のニヤニヤしちゃうような恋バナから、雪女である自分の能力に怯え、うまく人と接することができない日下部の告白まで、味わい深い会話の数々はどれもが必見。
そして、大きなアクションが少ない作品だからこそ光る細やかな顔や手の動き、ときには大胆に描かれる表情の変化など、作画面のすばらしさもアニメならではの見どころだろう。
高橋先生と亜人たちの描写は、現実の世界では「マイノリティ」と言われる立場の人々との関係性を投影することもできるわけだが、そこに必要以上にメッセージを押しつけることなく、だれもが共感できるであろう理想が描かれているのが本作の持ち味。
とりあえずは亜人ちゃんたちがキュートでたまらないのも多くの人にとって本心だと思うが、「ちょっと他人に優しくなれる気がする」という視聴後のほんわかした気持ちが少しでも広がると、世の中も少しハッピーになるかもしれない──そんなことも思わせてくれる好作だ。
TVアニメ『亜人ちゃんは語りたい』を観たあとに……
今回、TVアニメ『亜人ちゃんは語りたい』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしい原作を紹介しちゃいますよっ。
『亜人ちゃんは語りたい』ペトス
『亜人ちゃんは語りたい』第1巻
ペトス 講談社 ¥602+税
(2015年3月6日発売)
原作は基本的に各話完結型のショートストーリー。
アニメ版はその要素を巧みにピックアップしながら各話のエピソードが作られている。もちろん、素直に原作だけ読んでも非常に魅力的な作品ではあるが、アニメ版と比較することで「こう持ってきたか!」といった構成力の妙も楽しむことができる。
また、アニメ版にも反映されてはいるが、高橋先生の生物教師らしい視点での伝承の考察は必見。文字のほうがより「理屈っぽさ」が際立つ……かもしれない。
原作マンガのほかに、このマンガもおすすめ!
『亜人』桜井画聞
>
『亜人』第1巻
桜井画聞(画)三浦追儺(作) 講談社 \602+税
(2015年3月6日発売)
さて、ここであえて「全然関係ないよ!」という作品をひとつ。
タイトルに同じ「亜人」とあっても、こちらはメチャクチャ恐ろしいバケモノなのは表紙からして一目瞭然。しかし、配信ではなくテレビ放送で観ている人ならご存じだと思うが、パート間のCMで、この怖いほうの『亜人』の告知が入るのである。
「絶対、狙ってやってるだろ!」とツッコミを楽しむためには、こちらも必読。そして『亜人ちゃんは語りたい』の心優しい世界がいかに貴重であるか、改めて噛みしめていただきたい(?)。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。