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『タイムスリップオタガール』 第1巻 佐々木陽子【日刊マンガガイド】

2017/01/26


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『タイムスリップオタガール』


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『タイムスリップオタガール』 第1巻
佐々木陽子 ほるぷ出版 ¥600+税
(2017年1月15日発売)


地方暮らしの30歳スーパーのバイト、なによりもオタクである城之内はとこは、人生において何よりも大事な夏の同人誌即売イベントの帰りに、事故がきっかけでタイムリープを経験した。
最初は数日間程度で、同人誌爆買いやミュージカル観劇のリピートをのん気に楽しむが、とうとう1996年、中学2年生まで戻ってしまう。

『僕だけがいない街』のごとく、不可解な事件でも解決するのか? と思いきや、まずはとこは、今まで積みあげたお宝同人誌の山が消滅している(まだ買ってないのだから当然だが)事実に号泣し、オタクのインフラであるネットがないこと(この頃は「パソコン通信」の時代だった! しかも「テレホーダイ」で接続とか……)に衝撃を受ける。
同人誌紹介コミック誌の存在、その通販の手段は「無記名小為替」、グッズといえばカードなど紙製品で、アニメといえばビデオで録画し、ソフトが手軽に買えるという発想がないからかじりついて見る……などなど、20年ほど前のつましいオタクライフが泣かせる。
ほかにも90年代小ネタがいっぱいで、目頭が激アツだ。

1996年はエヴァブームに火がつき始めた頃で、『BSマンガ夜話』なんかも放映され始め、マスコミ上では「オタク評論」が飛びかっていたが、現場の、とりわけ田舎のオタク少女たちはとにかく、飢えていたのだ!
その飢餓感からくる熱量が、彼女らが成長した現在、オタク界の拡散とライト化を誘った……かどうかはさておき、はとこは中学生時代の黒歴史である「交換ノート」と再会し、「痛さ」に震えながらも、漫画家になりたかったことを思い出す。
ほぼ読み専(同人誌を読む専門で、描くほうでない)と化していたものの、中学生離れした画力を隠しながらの、苦難のまんが道が今、始まる!
持ちこみから『COMICポラリス』上で即連載、というデビューを飾った著者ご自身ともども、先々見守りたいところである。

コミュ障気味ながら、30歳なりに世渡りスキルがついたはとこは、暗黒の中学生時代からの青春やり直しも全然アリな雰囲気。
しかし、フラグが立ちかけている、クラスメイトの野球少年の名前すら出てこない(はとこが気にしてないから!)あたり……。
うん、それでこそ生粋のオタク女子だ! 応援するでござるよ!



<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。

単行本情報

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