単行本最新第3巻も好評発売中の『宝石の国』の作者・市川春子先生へのインタビューも後半へ。今回は市川先生のマンガのルーツについてお話をうかがった。
前編はコチラ!
【インタビュー】上は少年、下は少女。性別のない宝石たちは「色っぽい」! 『宝石の国』市川春子【前編】
マンガを描く楽しみは、妄想がかたちになること
――『宝石の国』にしても、短編集『虫と歌 市川春子作品集』(講談社)[注1]『25 時のバカンス 市川春子作品集Ⅱ』(講談社)[注2]にしても、不思議な生命体や、生命を主題とした作品が多いですよね。何かそうしたテーマに興味を持つに至ったきっかけはあったのでしょうか。
市川 特別意識したことはないですね。小さい頃から花や虫が好きだったな、とは思いますが。
――子どもの頃はどんなマンガを読んでいましたか?
市川 小学校の時は『ハイスクール!奇面組』(新沢基栄)[注3]や『こいつら100%伝説』(岡田あーみん)[注4]など、基本的にギャグマンガが好きでした。中学では萩尾望都さん[注5]の作品を、高校では『風の谷のナウシカ』(宮崎駿)や 『AKIRA』(大友克洋)を友だちに借りて読んで、「すごーい! こんなマンガがあるんだ!」と衝撃を受けました。小中高とゲームばっかりしてたので、マンガは目ききの友だちからオススメを借りることのほうが多かったです。
――いいお友だちに恵まれていたんですね。マンガを描き始めたのはいつ頃だったのでしょう。
市川 就職してエディトリアルデザイナー[注6]をしていたのですが、ふと「ひとりで企画、編集、デザインまでやったら楽しそうだな」と思いついて。マンガならそれが可能かと思って。それで、ちゃんと一本描いてみようと。
――それまでまったく描いたことがなかったんですか?
市川 なんとなくはありましたが、それも就職してからで。完成まで仕上げたものはないですね。『虫と歌 市川春子作品集』『25時のバカンス 市川春子作品集Ⅱ』『宝石の国』の原型のような感じのものを描いていました。それで、どうせちゃんと描くなら期日や目標を持ったほうがいいだろうと思って「アフタヌーン」の四季賞[注7]に応募したら賞を頂けたんです。それが『虫と歌』です。
――うわぁ! 漫画家を志して(?)から、デビューするまでがめちゃくちゃ早いじゃないですか。
市川 運がよかったと思います。マンガを描いていて楽しいのは、妄想がかたちになることですね。自分で描きながら、「ああこうなるか~」なんて思ったりして。これは飽きません。
――漫画家以外で興味のある職業ってありますか?
市川 インダストリアルデザイナー[注8]になりたいと思っていたことはありましたね。
――その夢の一端も、マンガで叶えられているのかもしれないですね。市川先生が描く室内空間はとても素敵です!
- 注1 2009年11月20日に発売された市川春子先生初の単行本。月刊「アフタヌーン」に掲載された短編作品『星の恋人』『ヴァイオライト』『日下兄弟』『虫と歌』の4編を収録。
- 注2 2011年9月23日に発売された市川春子先生の単行本2作目。月刊「アフタヌーン」に掲載された短編作品『25時のバカンス』『パンドラにて』『月の葬式』の3編を収録。
- 注3 新沢基栄の作品。一堂零・冷越豪・出瀬潔・大間仁・物星大の5人からなる名物集団「奇面組」と、河川唯・宇留千絵などの個性的なキャラクターが繰り広げる学園ドタバタギャグ・コメディ。1982年から1987年まで「週刊少年ジャンプ」にて連載、1985年からはフジテレビ系列でテレビアニメ化されゴールデンタイムに放送され大人気を博した。最終回の「夢オチ」騒動でも話題になった。
- 注4 岡田あーみんの作品。戦国時代を舞台に、美しい姫・白鳥姫子と彼女の身を守る極丸・危脳丸・満丸の三人組忍者によるバカバカしくも愉快な日常を描いたギャグ・コメディ。1989年から1992年まで「りぼん」にて連載。
- 注5 日本を代表する女性漫画家のひとり。代表作は『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』『残酷な神が支配する』など多数。作品のジャンルは非常に幅広く、もはやマンガという枠を超えて高く評価されている。
- 注6 雑誌、カタログなど書籍を読みやすくかつ美しくデザイン的に編集する職業の人。
- 注7 「アフタヌーン」の四季賞 「アフタヌーン」(講談社)が1986年の創刊時から主宰しているマンガ新人賞で、年に4回の募集がある。
- 注6 工業デザイナーとも呼ばれる工業製品のデザイナーのこと。