話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも！

今回紹介するのは『このマンガがすごい! comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん』

『このマンガがすごい! comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん』
服部昇大 宝島社 ￥740+税
（2017年9月25日発売）

昼間から「このマンガがすごい！WEB」などという大層な名前の情報サイトを見ているようなみなさんは、まあ基本的に、親の葬式と自宅が火事になった際の消火活動時以外は、常にマンガのことばかり考えている、クソオタク or サブカルクソ野郎の二者択一と思われるので、日本語ラップという音楽ジャンルについて、あまり詳しくない人もいることだろう。

いや、詳しくないだけなら、まだよいのである。
日本語ラップといえば、いわゆる“DQN”の聴く音楽であり、いつもいつも親に感謝しながら寒いダジャレを歌詞にし、悪そうなヤツらとはだいたい友だちなのだとうそぶき、たとえ死んでも墓石破壊し蘇り、スキあらば会話の途中にヨーヨーチェケラッチョと意味不明な言葉を挟んでくるような、頭の悪い人種がやっている、自分に縁のない、嘲笑の対象なのだと思っている人も少なくないのではないだろうか。

いやはや、それはとんでもない勘違いだ！
じつは日本語ラップとは、音楽ジャンルのなかでも極めて“文脈性”の高い、いわば常日頃からマンガなどのエンターテイメントのことばかり考えている「このマンガがすごい！WEB」ユーザーにピッタリの音楽ジャンルなのである。間違いない！

……などと急に断言されてしまっても、やはり今まで縁のなかった音楽ジャンル、どこからどうやって聴けばよいか、わからないという人も多いだろう。
そんなマンガ大好きクソオタク or サブカルクソ野郎と日本語ラップをつなぐ希望の架け橋こそが、今回紹介する『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』だ。Checkしときな！

さて、まず大前提として。 じつは2017年現在、日本語ラップは何度目かのブームを迎えている。
KICK THE CAN CREWやRIP SLYMEやm-flowなどのユニットがヒットチャートを席巻し、CDショップで日本語ラップの棚が軒並みソウルドアウトするようなココロオドル時代だった2000年代と比較すると、少しわかりにくいかもしれないが、2015年からスタートしたMCバトルを扱った深夜番組『フリースタイルダンジョン』のスマッシュヒットに端を発し、情報番組でのMCバトル特集や、大規模野外フェスや音楽番組へのラッパーの出演、第一生命やキリンやケンタッキーや日清といった大企業がラップを使ったCMを連発……と、メディア露出も急増中だ。

そんななか、2015年秋、突如としてTwitterに投稿され、そのインパクトから大きな話題を呼んだマンガこそが、服部昇大による『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』であった。

日本語ラップ漫画　「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」 pic.twitter.com/O858CxdoGx

— 服部昇大/美ー子ちゃん9/25発売 (@hattorixxx) 2015年10月22日

本作を描いて自身のTwitterアカウントにアップした服部は、集英社「ジャンプスクエア」に連載していた『魔法の料理 かおすキッチン』などでマニアックなファンを持つ漫画家で、音楽フリーペーパーで連載コラムを持っている日本語ラップ愛好家としても知られている。その作品としての最大の特徴は、70年代の少女マンガを彷彿とさせる絵のタッチだろう。前述の『かおすキッチン』も、やはり往年の少女マンガ風の表現を多用した、魔法少女もののパロディギャグマンガだった。

そして「美ー子ちゃん」もタイトルのとおり、70年代前半から90年代後半まで、多くの有名少女雑誌などに掲載された伝説の広告マンガ「日ペンの美子ちゃん」のパロディ作品だ。
美子ちゃんによく似た少女“美ー子ちゃん”が、横3×縦3コマの9コマという広告マンガのフォーマットで、日本語ラップの名盤・珍盤を紹介していく……。まさに“レペゼン日本語ラップ愛好家”の手による“昭和の少女マンガリスペクト”からしか生まれえない一作であり、その誕生が偶然だったのか必然だったかは、日本語ラップとマンガの神のみぞ知る、といったところだろう。

ラップに迷える子羊たちのメシア、美ー子ちゃん。HIP HOP用語解説からディスクレビューまでやっちゃうYO!!