人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、服部昇大先生!
学文社『ボールペン習字講座』の広告キャラクターとしておなじみ、『日ペンの美子ちゃん』が復活した、という大ニュースが飛びこんできました!
懐かしの広告マンガ『日ペンの美子ちゃん』6代目に就任したのは、SNS上で『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』というパロディを描き話題になっていた服部昇大先生!!
今回のインタビューでは、『日ペンの美子ちゃん』6代目にいたるまでの経緯や、今後の展開などあますことなく聞きだしちゃいました!
字がきれいな人も汚い人も、要チェックですよ!
パロディで訴訟不可避!? しかし……
——遅まきながら『日ペンの美子ちゃん』6代目就任おめでとうございます!
服部 まさかこんなことになるとは思っていませんでした(笑)。
——「美子ちゃん」を復活させようとしていた矢先に、服部先生の『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』が担当者さんの目にとまってオファーされたそうですね。
服部 メールで連絡をいただいたのはちょうど『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』の1冊めの同人誌を出したころだったと思います。「一度会ってお話ししたい。お会いしませんか」と。くわしいことが書いてなかったんで、これはてっきり怒られるのかなと……。
——会うまでわからなかったんですか。それは怖いですね(笑)。
服部 美子ちゃんを復活させようとネットで描き手を探していたら『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』が見つかったと。社内では公募する案なんかもあったそうです。当初はもっと、今風の絵のマンガで考えてたらしいんで。ふつうに考えたらそうですよね。
——往年の「美子ちゃん」の流れでいったらそうですよね。初代から5代目まで、時代にそくした画風の方を選んでいますし。
服部 それでいったら、今はもっと萌えキャラっぽい画風の人になりそうなものですよね。「どう思われます?」と聞かれたので「いや、美子ちゃんは絶対古い少女マンガっぽい方がいいですよ」といってるうちに、じゃあ僕がやってもいいのかなという結論になったわけです。
——「美ー子ちゃん」に対してのおとがめはナシですか?
服部 はい。「服部さんにオファーする事に社内でも賛否はあるんですけど」とはいってましたけど。
美子ちゃんの自由すぎる性格は「9コマ」ゆえ!!
——かつての「美子ちゃん」は雑誌の広告だったわけですが、今はツイッター発信で週1回更新ですよね。なかなかたいへんなのでは?
服部 SNSでやる以上、時事ネタを入れていきたいとは思うんですが、来週になったらもう話題が古くなってるかもっていう心配もあったり。それに「美子ちゃん」は伝統あるブランドなので、あんまりウケ狙いでネットのバズワードを入れて安っぽくなるのもちょっと違うじゃないですか。そこの兼ね合いを考えますね。
——昔の「美子ちゃん」ってラブレターのネタが多かったですよね。
服部 今はラブレターどころか手紙を書く機会も少ないですから。辞表のネタは使いましたが。ニュースで文字や言葉が話題になると「あ、これ使えるかも」と思いますけどね、バンドマンの浮気の反省文とか。最近ではついに「忖度」を使ってしまいました(笑)。石原慎太郎の「全ての文字を忘れました」も「これだ!」と思ったんですが病気らしいんで、ね……。
——キラーフレーズなのに惜しかったですね。おもしろく読ませつつ、広告マンガなので必ず宣伝フレーズを入れなきゃならないという縛りもありますし。
服部 そうですね、宣伝フレーズはどうやっても入れこむ場所が決まってくるし。それから、3段で基本9コマのスタイルは崩さないようにといわれています。これこそが「美子ちゃん」ですからね。
——たしかに。雑誌の1ページ広告時代は、マンガの下に受講者の体験談や申しこみ方法とかがあったのでこのサイズだったんですよね。
服部 ツイッターですからホントはそこを合わせる必要はないんですけど。やっぱりこのスタイルこみで「美子ちゃん」ということで。でも9コマって、すごく特殊なんです。コマが小さくなるから文章も短めにしないと読みづらくなる。あと……ちゃんとオチをつけようとしても、9コマだと無理(笑)。
——歴代のも特にオチがない回も多かったような……。
服部 だいぶ見せてもらいましたけど、夢オチがすごいいっぱいあったり(笑)。いや、これしょうがないんですよ、9コマじゃ!
——9コマのなかで宣伝を入れて、ひとネタを完結させるってかなりのワザが必要ですね。
服部 本当にある程度これまで連載の経験があってよかったなと思います。また、先に「美ー子ちゃん」を描いてたからどうにかなってるともいえますが。うっかりすると毎回同じみたいになってしまう。
——歴代の「美子ちゃん」は作家さんによって性格も若干違いますが、服部先生バージョンの美子ちゃんの特徴はどこにあると思いますか?
服部 イカれてるというか……まあこれは結果的にですけど(笑)。メタ的表現じゃないですけど、「私は日ペンの広告キャラクターよ」「営業担当です」っていう自覚があるみたいな形になってて。20代くらいの人は美子ちゃんを初めて見るわけなので、この前提でもいいかなと。実際に、このマンガが始まってから新規で日ペンを始める人がかなり増えているらしいです。
——効果絶大ですね!
服部 特に50代の人が増えてるとか。SNSなのに? そこは意外でした。
——若い頃に「美子ちゃん」を見ていて、興味があったけどできなかった人とか?
服部 字がきれいなほうがいいっていうのは今の時代でも有効なんですね。
「美子ちゃん」とラップのドープなフュージョン
——そもそも『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』を描いたきっかけは?
服部 昔からかなりラップを聴きこんできたので、いつかラップのマンガを描きたいと思ってたし、人からも描けばいいのにといわれてたんですよ。ところが僕の絵柄って、まるでヒップホップと関係ない絵なんですよ……とかいってるうちにフリースタイルダンジョンが流行りだして、今までラップに見向きもしなかった人らが急に知った風なこといい出したり(笑)。そんなやつらにヘンなマンガ描かれる前にオレが描かなきゃと。
——時局に迫られたわけですね。
服部 じゃあどういうふうに描こうかと……。いろいろ考えてうるうちに、ある日「日ペン」を「日ポン語」に変えたらいけるなと思いついて。
——「美子ちゃん」が「美ー子(B子)ちゃん」もできすぎですよね! ヒップホップを「おすすめする」という目的自体、体裁もバッチリですし。
服部 この美子ちゃんスタイルのどおりにやればいいんだと。
——でも、ヒップホップの世界感的な絵柄で描かなかったのは結果的によかったんじゃないでしょうか。そうした場合、もともとヒップホップ文化の好きな人の目にしかとまらなくなっていたかも。
服部 そうだと思います。ラップを扱ったマンガを見ると、たいていはそういう感じですよね。絵からしてラップが好きそうな雰囲気がプンプンする。でもいまひとつ、日本のマンガの形態とマッチしてないように思って。
——『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』はツイッターにアップしていたんですよね?
服部 2015年くらいからポツポツ描いてアップしてたら意外に反響があって。マニアの人から最近ラップを聴き始めた人、「ラップに興味持ってたけどあまり知らないからちょうどこういうのが見たかった」という人も。それから40代くらいで「あ、日ペンの美子ちゃんじゃん」と元ネタでひっかかってくれた人もいました。
——それで翌年、自主制作本にまとめたわけですね。コミケ的な客層にも売れるし、ディスクユニオンでも売れる。ここが強い!
服部 部数でいうと今まで作った本では一番売れました。委託販売がメインなので利益にはあんまりならないんですけどね(笑)。