「ジャンプ」作家のルーツは70'sの「なかよし」「ちゃお」!?
——服部先生が「美子ちゃん」を知ったのはいつ頃だったのでしょう。
服部 最初に見たのは4代目だったような気がします。高校生くらいの頃から70〜80年代の古い少女マンガを読みあさるようになって……古本屋で年代ものの「りぼん」を買ったりして、それで初代に出会ったのかな。あと、僕以前にも「美子ちゃん」のパロディはあって。『サルでも描けるまんが教室』、コミックとらのあなの広告マンガ『とらのあなの美虎ちゃん』とか……ほかでも見たことがあります。
——「美子ちゃん」は90年代にいったん終了したあとも忘れ去られることのない、不思議なマンガですね。2004年には『あの素晴らしい日ペンの美子ちゃんをもう一度』という、美子ちゃんの歴史をたどる本も出ています。
服部 裏表紙とかにいきなり載っててなんだかよくわからないけど読んでしまう。それは歴代の作家さんの絵の魅力や遊び心のためだと思います。
——服部先生はこれまで主に「ジャンプSQ」や「ヤングジャンプ」で描かれてきましたが、絵柄に古い少女マンガのテイストが微妙に入っていますよね。
服部 『かおすキッチン』を描いていたころには、もっと『ガラスの仮面』のパロディみたいにしたほうがわかりやすいのに、といわれたこともあります。具体的に何かのパロディをやっていたわけではないので。
——一番わかりやすいのが、お蝶夫人のパロディの龍豪ヶ崎麗香さんくらい? それでも「ジャンプSQ」の読者に通じたかは疑問ですが(笑)。
服部 全体のノリとして「なんらかの少女マンガっぽい」っていうくらいですね。
——もともと少女マンガが好きだったんですか?
服部 妹が買っていたので「なかよし」「りぼん」「ちゃお」とか読んではいたんですけど。70〜80年代の少女マンガを読み始めるのは高校生くらいからで、今となっては当時の少女マンガ研究はライフワークですね。
——好きなマンガ家さんは?
服部 フェイバリットは大和和紀先生と、しらいしあい先生ですね。
——うわっ、ずいぶんとマニアックな名前が……。
服部 しらいしあい先生はすごく夢中になって、古本屋を回って単行本全部集めたんですよ。しらいしあい研究の第一人者といっていいくらいに。
——しらいしあい先生は70〜80年代すごく人気のあったマンガ家さんで『あるまいとせんめんき』『ばあじん♪おんど』『わたしのあきらクン』などの代表作がありますが、いわゆる少女マンガ史からはこぼれがちですよね。ちょっとエッチなネタやギャグが多くて。
服部 影響力は大きかったと思いますよ。大御所女性漫画家のA先生やK先生もしらいしあい先生が大好きだったとおっしゃってました。でも、いわゆるオタク人気はないんですよね。当時、ホントにふつうの女の子たちに愛されたマンガで。
——いい意味で大衆的で、絵もノリもライトでセンスがよくて。サブカル文脈で拾われそうで拾われない。
服部 絵もポップだし、80年代っぽい表現が魅力的なんですよね。ヒロインがおきゃんなところが大好きです。
少女マンガを「ディグ」りまくったことで生まれたオリジナリティ
——こうした少女マンガテイストの絵柄は意識して作ったんですか?
服部 途中から路線変更してこうなりました。僕、デビューは手塚賞だったんで。デビュー後何作かは、ギャグは入っていてもストーリーマンガを描いてたんですけど、連載とれないしあとからどんどんうまい人が出てくるし。このままじゃダメだと思ってるときに編集さんからギャグマンガ路線でどうかといわれて。それならいっそ人のやってないことをやってやろうと。ちょうどそのころ、少女マンガ漁りにかなり熱が入っていた時期で。
——趣味の研究活動から、いよいよ実践に移行するわけですね。
服部 絵柄を変えてギャグにしたら、読者の反応がよくなって『かおすキッチン』の連載に結びついたんです。
——古い少女マンガをディグった末に編み出された絵柄?
服部 『かおすキッチン』のころは今よりしらいしあい要素がモロに入ってますけどね。背景の描き方とか真似してるんで(笑)。
——背景ですか!?
服部 ファンシーケースが出てくるんですけど、手描きのチェックにしてて。こういうチェック、よくしらいし先生が描いてたんですよ。ドットなんかも。
——サンプリングレベルですね。そもそもファンシーケースすら昭和アイテムすぎますよ。こうした手のかかる微細ネタは自分の楽しみのために?
服部 そうですね。人に指摘されたことはないです。
——気がつけないですよ(笑)。
服部 80年代ごろにはすごく使われてたドットのトーンにもこだわったりして。
——目が星になったりするのも、昭和っぽいですね。
服部 ペットの動物に人間と同じ目を入れちゃうのも昔の少女マンガを意識してます。表現を追究してたのかもしれませんね。
——楽しんで描いてますねえ!
服部 別のところに労力かけろって話ですけどね。メジャーとは何か考えるとか。
——すごい棒読みですよ(笑)。
服部 『かおすキッチン』のコミックスの装丁が「ひとみコミックス」風なのも、しらいしあい先生リスペクトからです。
——「ひとみ」自体が91年に休刊してますから! それにくどいようですが「ジャンプSQ」だし(笑)。
服部 最初は「ひとみコミックス」そっくりにしすぎて、集英社の上の人から「やりすぎだよ」といわれたんで若干変更しました。
今後はアニメ化に向けて動き出す!?
——『日ペンの美子ちゃん』復活&大人気を受けて、このたび歴代「美子ちゃん」の原稿が展示されるそうですね。
服部 すごく楽しみです! グッズも販売されるそうですよ。何しろ「日ペンの美子ちゃん」の原画が展示されること自体貴重だと思うのでぜひこの機会にたくさんの人に見てほしいです。
——服部先生バージョンの美子ちゃんって、しっかりと「美子ちゃん」なんですけど、比べて見るとそんなに歴代キャラと似てないんですね。
服部 そうですね。しらいしあい先生、忠津陽子先生、大和和紀先生とかが交ざり合ったような画風かな?
——ちなみに『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』のほうも描き続けていくんですか?
服部 はい。それは描いてOKといっていただいてるので。
——これが両立するなんてすごいことですよね。
服部 本家とパロディを同時に描いてるっておかしいですよね。あきらかに。
——「美子ちゃん」と「美ー子ちゃん」の描きわけは?
服部 前髪がちょっと違います!
——2人が競演するとかは?
服部 やっていいならやってみたいですね。お客さんから見て「いっしょじゃん」といわれないように……。ツイッターでは「双子っていう設定だったらいいのに」という声がありました。いざとなったらそれいただこうかと(笑)。
——いずれ『日ペンの美子ちゃん』を単行本で読めたらいいなと思いますが。
服部 出せたらうれしいですね。本当になんでこんな仕事してるんだろう、想像もつかないところにたどり着いたなあと思ってます。なんでもやってみるもんですね。
——最近では『こんなブラック・ジャックはイヤだ』のつのがい先生が手塚プロに公式作家として迎えられたり、水木しげるタッチのドリヤス工場先生が人気を得るなど、“ファンアート”的な後継者が認められる土壌が育っています。
服部 パクリでもパロディでもなく、イタコマンガといういい方もありますよね。
——つのがい先生にしてもドリヤス工場先生にしても、両巨匠のどの時期のタッチでもない。最大公約数の手塚タッチ、水木タッチなんですよね。そこは服部先生の「美子ちゃん」とも共通しているのかなと思います。
服部 ツイッターで某昭和の名作のリメイクに対して「今風にしてほしくない。『日ペンの美子ちゃん』みたいに昔っぽくやってくれたらいいんだけどなあ」という意見を見かけたんですよ。これってたぶん「昔のままにやってほしい」という意味ではないんですよね。
——当時のまんまでやられると古く感じるのかもしれません。
服部 自分としては、かつての美子ちゃんを知らない人にもおもしろがれるものにしようとは思っています。『クロマティ高校』だって、池上遼一を知らなくてもおもしろいわけで。っていうか当時のマガジン読者のほとんどは池上遼一を知らないですよね。そういうのが正しいパロディのあり方だと思うし。
——何か「美子ちゃん」に関して野望はありますか?
服部 実写化です!
——えっ、アニメ化じゃなく!?
服部 アニメもチャンスがあったらおもしろそうですけど。
——深夜の5分枠とか。
服部 合いそうですね。こっちから願って実現することじゃないと思いますけど……いってみたら実現するかも? 最近は「美子ちゃん」を『SPUR』に描いたり、『an an』ではマナー講座の記事に登場したりしているんです。今後もいろんなコラボができたらいいなと思ってますのでよろしくお願いします! コラボ先も募集しているそうです。
——ありがとうございました!
取材・構成:粟生こずえ
6代目『日ペンの美子ちゃん』・服部昇大先生のインタビュー、いかがでしたか?
これからの活躍にも要注目ですね!
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