『ワカコ酒』第3巻
新久千映 徳間書店 \562+税
(2014年8月20日発売)
「コミックゼノン」に『ワカコ酒』が初登場した時のことを、よく覚えている。仕事帰りと思しき20代後半の女子が、居酒屋のカウンターで焼き鮭の皮を肴に冷や酒をあおりながら「ぷしゅー」と至福の息を吐く、わずか6ページの呑兵衛ショート。彼女のクールでキュートな“ねこぢる”をほうふつとさせる表情がとても印象的だった。
以降、『ワカコ酒』は不定期連載を開始。いつしか「コミックゼノン」の発売日にワカコの姿をいの一番に探すようになった。同じようにワカコを渇望する読者が続出したのだろう。少しずつ口コミでおもしろさが伝わり、定期連載となり、単行本化で知名度が加速し、webコミックぜにょん、pixivコミック、スマホ版ゼノンランドといったネット媒体に出張編をスタートし、本誌でも毎号2本立てで掲載されるほどの人気作品となった。そして3巻の帯では、ついにドラマ化の発表が! まるで本作56夜に登場するブリのごとき出世魚マンガだ。
仕事帰りや買いもの帰りにワカコが立ち寄るのは、OLの財布にも優しい大衆的なお店ばかり。ビールとから揚げ、熱燗と焼き鮭の皮など、相性抜群の組み合わせにほっこりしながら晩酌を楽しむのだ。3巻でも、もちろん普段どおり。二度漬け禁止の串カツ屋でレモンサワーをグビリ、いかの塩辛で表面張力一杯の日本酒をずずず、じゃがバターとビールでぷしゅ~。楽しそうなワカコの姿を見ているだけで、居酒屋へ駆けこみたくなる。
うれしいのはワカコがひとり飲みならではの様々な楽しみ方を提示してくれること。たとえば58夜では買ったばかりの時代劇小説を片手に、小料理屋のカウンターで冷や酒をちびちびやるのだ。これぞ、粋の極み乙女だね。
一方、古い中華料理屋でチンジャオロースーをつつきつつ、瓶ビールを手酌して「ぷしゅしゅ~」とやる59夜では、常連客とママさんの雑談に割って入りたい気持ちをグッと抑える。一見客の分をわきまえ、「いつか常連になれるかな~」と思いをはせるのだ。オッサン読者としても、見習うべき点が多々あります。
ところで、スペシャルエピソードの「母娘酒」にて気になることが……。母娘2人で温泉へ行き、旅館でおつくりをパクつくワカコ。そんな彼女にワカコ母が「ヒロキ君とはどうなの?」と問いかけるのだ。時折、その影をちらつかせていた彼氏の件であると思われるが、母親公認ということは、ぼちぼち年貢の納め時? しかしながら、まだまだワカコは独身酒を楽しみたいご様子でホッ。
まぁ、ワカコなら仮に人妻編へ突入しても「ぷしゅ~~」を連発してくれるハズですけどね。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」