人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、沖田×華先生!
発達障害や家族関係など、自身の体験を題材にしたエッセイマンガを数多く世に送り出してきた沖田×華さんが、産婦人科医院での見習い看護師経験を描いた話題作『透明なゆりかご』。
第1回では沖田先生の『透明なゆりかご』にこめられた思いについてディープに語っていただきましたが、第2回の今回では、沖田先生が漫画家になったきっかけ、その唯一無二の作家性について、さらに突っこんでお話をうかがいました!
風俗に置いてあったマンガがきっかけで漫画家に!?
――そもそも沖田先生が漫画家になられたきっかけは?
沖田 マンガを描き始めたのは、漫画家の桜壱バーゲン(櫻井稔文)さんにすすめられたのがきっかけなんですが、昔から顔だけのイラストとかはよく描いてたんですよ。
正看護師の資格をとったものの、私の場合は障害のことで結局、看護師として働くのをあきらめました。
その後、いろいろあって風俗で働いてたんですけど、その名刺にイラストを描いたり、待機室でヒマな時に30秒マンガを描いたりしてたんです。部屋に大きな段ボール箱があって、そこに「今日会った嫌な客」とかいうお題でペンでガーッと描いたら、みんな爆笑してくれて。
あ、笑いがとれた!って、うれしくて、それから毎日出勤してすぐガーッと描くようになって。
その待機室に置いてあった実話誌の桜壱バーゲンさんのマンガが大好きで、ファンレターを送ったことで交流が始まりました。最初は話がおもしろいからライターになれっていわれたんですけど、年賀状の絵を気に入ってくれたみたいで、適当に4コマ描いてみてっていわれて、昨日の客の話を描いたら、それがマンガになってたらしくて。
ペンを渡されて、すぐ賞に出せ!って。描き始めて5カ月ぐらいで双葉社の新人賞に出したら、選外奨励賞をもらったんですよ。
――それはすごい。ほとんど独学というか、天性のセンスですね。
沖田 でもいっこうに仕事が来なくて。もうひとり私の好きなライターでゲッツ板谷さんって方がいて、ファンだったから彼が当時運営していたホームページにいろいろ描いて送りつけてたら、「じゃあ、オレのとこで作品をアップしなよ」っておっしゃっていただきまして。
2カ月に1回。板谷さんが脳卒中で倒れてた時期も律儀に送り続けてたら、奥さんがアップしてくれてて、2年ぐらい続いた時にサン出版の方が本にしましょうって声をかけてくださったんです。
それが『こんなアホでも幸せになりたい』っていう最初の単行本なんです。全然売れなかったんですけど。本を出したらスッキリして、やっぱり看護師になろうって思ってたんですよ。
そしたら献本した出版社から連載の話がパラパラ来て、そこから幸いにも仕事が途切れたことがないまま現在にいたってます。
――かなりディープな入り口ではありますが、キャリアとしては順風満帆ですよね。特に影響を受けたマンガなどはありますか?
沖田 小さい頃はとにかく心霊ものが好きで、宜保愛子とかめちゃくちゃ好きでしたね。新井素子さんの『二分割幽霊綺談』って小説を読むとキャラクターがべらべらしゃべりだすこともありました。
とにかく知らない世界を知るのが好きだったから、『うしろの百太郎』とか『サバイバル』も好きだったけど、ビッグ錠さんのマンガを読んで、ありえないぐらいでかいハンバーグを自分でもつくろうとしてブワーッて火が吹いて大騒ぎになって、途中でマンガ禁止になっちゃいました。
マンガと現実の区別がつかなくなるんですよ。地震のマンガを読んで「地震が来る!」ってパニックになったこともあるし、ファンタジー系も「探しにいこうぜ」ってなるので。ほんとメチャクチャなこと描かないで欲しいですよ。
『スーパー食いしん坊』第1巻
ビッグ錠(著)牛次郎(原案) 中央公論新社 ¥552+税
(1999年8月発売)
――ビッグ錠はヤバイですね(笑)。なんにしても、沖田先生の作品は、マンガの影響を受けたというよりは、ご自身の人生の中で純粋培養されたものという気がします。初期はエロを中心に描かれてましたよね?
沖田 そうそう、今はなくなっちゃったけど『みこすり半劇場』ってエロ漫画誌でずっとおっぱいばっかり描いてて。そしたら、「シリアスな話を描きませんか?」という話が来て、それが発達障害について描いた最初のマンガの『ニトロちゃん』ですね。
編集者とネタ出しをしていたとき、実体験ネタとして、私、整形もしてるし、バイセクシャルだし、あとは発達障害でいじめられてたことかなーって話してたら、じゃ、それでって。
私的には自分からそういうことをいったものの、描くのがすごく嫌で。ずーっといじめられまくってて、親も知らないし、そのなかに性虐待も入ってたから、私としてはやっぱり隠したいことで。せっかく普通の人として生活しているのに、昔のこんなことを描いてしまったら……って。
でも、しぶしぶ描いて、当時は発達障害自体があんまり知られてなかったので、反響があるとは夢にも思ってなくて。案の定、当時はそれほど話題にならなかったんですけど、しばらくしてから荻上チキさんがラジオで紹介してくれて。そこから発達障害の当事者としてのマンガを描き出した感じですね。
『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』
沖田×華 光文社 ¥571+税
(2013年9月10日発売)
発達障害と向き合うことで見えてきたこと
――なるほど。発達障害については、当初は決して積極的に描かれていたわけではなかったんですね。自身のつらい過去をマンガに描くことは苦痛でした?
沖田 うーん。やっぱり看護師を続けられなかった理由が私の場合は発達障害だったこともあって、話題にすること自体がイヤはイヤでしたね。ただ、自分的には何をやっても根本的に笑ってほしいというのがあるので、悲惨な話を悲惨に描いて、かわいそうとかいわれるのがいちばんイヤだし、笑ってくれた方がラクだなーって思って。笑いにはこだわっていたところはあります。
というか、もともとギャグマンガが好きだったので、笑わなくていいマンガが存在するってこと自体、よくわかってなかったのかも(笑)。
――そういうつらい過去を笑いをもって描くことで、ご自身のなかで何か変わった部分はありますか?
沖田 やっぱり自分のことを多少は客観的にとらえられるようになったし、発達障害のこと自体、じつはよく知らなかったので知ることができたのはよかったですね。自分のことを発達障害というフィルターを通していろいろ考えてみると、見えてくることがいっぱいあります。
うちおかんと仲が悪いんですけど、知識を得て客観的に見てみると、やっぱり軽度の発達障害じゃないかと私は思ってて。だからあの時もああでああだったんだーって考えることで、ちょっとだけ仲よくなれましたね。あと、いちばん下の弟も発達障害で、何かあるとすぐケンカになって、もう絶対に性格があわない!と思ってたんですけど、それも障害について知ることで、ちょっとだけ優しく接せるようになりました。
――発達障害については最近いろいろクローズアップされてますが、やっぱりまず知識と理解が大事な気がしますね。そもそも障害関係なく、他人のことなんかだれもわからないけど、背景を知ることで歩み寄れることもあるという…。
沖田 そうそう、だから結局、『透明なゆりかご』で描いてることもいっしょかなって。私自身、発達障害の人から「マトモに喋れるのにあなたは発達障害じゃないでしょ?」ってバッシングされることもあるんですよ。発達障害にしても、お母さんにしても、どこの世界でも内戦や格差はあって、イヤだなーって思う人もいっぱいいるんだけど、この人はなんでこうなっちゃったんだろう?と想像してみることで、見え方が変わってくることはあると思います。
――そういう沖田先生独特の視点は、何によって培われたものなんでしょう?
沖田 やっぱり人の人生にすごく興味があって、産婦人科医院で働いていた時、いろんな人の人生を間近で見ていたことが大きいのかも。自分とこの人の生きてる世界はまったく違っていて、私はそこに直接関わることはできないんだけど、でもすぐそばで細かいことまで見て、おぼえていて。今でも人のことを勝手にあれこれ妄想するのはくせみたいな感じですね。
――発達障害であることと、ご自身の作品は何か関係があると思われます?
沖田 それは自分ではよくわからないのですが、漫画家は私にとても合っている職業だと思います。ひとりで作業できるし、集中力もあるので一日中机に向かっていても平気だし。
みんなにバカだと笑われてきた自分が作品を描くことで感謝されるなんて、本当にありがたいことです。
――でも、今って何かにつけて、クレームを先まわりして自粛してばっかりの世のなかですし、『透明なゆりかご』はそういうなかでは絶対に生まれなかった傑作だと思います。最新刊の5巻はどんな内容になりそうでしょう?
沖田 生まれ変わりの話とか、ちょっとスピリチュアルな話が出てきます。あと、「中絶の家」って、昔ズタボロの民家でおばあちゃんが中絶手術をしていたエピソードも、今考えたら犯罪なんですけど寓話的な雰囲気もあっておもしろいかも。
――それは楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました!
※沖田先生の発言は、あくまでも個人のケースであり、発達障害の症例には個人差があります。
『透明なゆりかご』 第5巻
沖田×華 講談社 ¥429+税
(2017年5月12日発売)
取材・構成:井口啓子
沖田×華先生の『透明なゆりかご』の魅力がたっぷり掲載されている
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