365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
7月26日はゴットロープ・フレーゲが死去した日。本日読むべきマンガは……。
『ロジ・コミックス ラッセルとめぐる論理哲学入門』
アポストロス・ドクシアディス/クリストス・パパデミトリウ(著)
アレコス・パパダトス/アニー・ディ・ドンナ(画) 松本剛史(訳) 高村夏輝(監修)
筑摩書房 ¥2,700+税
7月26日は、ドイツの哲学者(論理学者、数学者でもある)、ゴットロープ・フレーゲの命日。
フレーゲは、ラッセルやウィトゲンシュタインらの哲学(分析哲学)理論の基礎となる論理哲学と言語哲学の分野で重要な成果を残した人物だ。
ラッセルとウィトゲンシュタインを主人公にしてマンガで哲学の理論を描くことができるのかという挑戦をした『ロジ・コミックス』では、若き俊英・ラッセルを同志と呼び、のちにラッセルが明らかにした理論的成果を前にして、フレーゲが自分の理論の誤りを潔く認める様子が描かれた。
作中でラッセルが「これまで知的誠実さを示す行為は幾つも見てきたが、私のパラドクスに対するフレーゲの反応ほどのものはなかった」「これ以上に勇気ある行為は存在しないだろう…」「…何を措いても真理を語ろうとする勇気」と述懐しているのは、フレーゲが自著『算術の基礎』第2巻に次の文章をつけたことを指している。
「およそ科学の著述家に降りかかる不運の中でも、本を書き終えた後に自ら構築した理論の土台の1つが揺さぶられることほど最悪なものはない。私がバートランド・ラッセル氏の手紙によってそうした立場に置かれた時、本書は既にほぼ完成を見ていた。 ラッセル氏のパラドクスによって私の法則の1つが崩れたことで、私の算術基礎のみならず、算術自体唯一可能な基礎までもが損なわれるだろう。」
ラッセルがその主著『プリンキピア・マテマティカ』を書く前、当時の数学の基礎があまりに脆弱であると考えていた時、約25歳年長のフレーゲは先述のとおりラッセルを同志と呼び、ラッセルの重要な発見を評価するとともに、自説をも過去のものとなったことを認めた。
ちなみにラッセルの弟子で20世紀を代表する哲学者のひとりになったウィトゲンシュタインは、ラッセルを訪れるよりも先に、まずフレーゲのもとへおもむき、フレーゲからラッセルを紹介してもらっている。
そんなフレーゲは、『ロジ・コミックス』では魅力的だが偏狭な人物として描かれ、反ユダヤ的な思想に陥る姿も描かれていることにも注目したい。
フレーゲの理論は、古代ギリシャ時代にアリストテレスが提唱した論理学の基礎を2000年ぶりに進歩させる革命的なもので、アリストテレス以来「主語と述語」のように命題が名辞で表されていたのを「Φ(A)」のような項と関数によって表す「命題関数」を発明し、また「すべての◯◯」や「とある◯◯」のような量化した言語要素を導入したことなどが、特に重要だといわれている。
フレーゲは、このようにして論理学で数学を基礎づけようとしていたのだ。
なおラッセルのパラドクスは「それ自身を含まないすべての集合は、それ自身を含むか?」というもの。
フレーゲは素朴な集合論に基づいていたためにこのパラドクスにより理論的な基盤を奪われてしまいましたが、直後にこれらのパラドクスを回避するべく公理集合論がつくられることになる。
またラッセルが盟友・ホワイトヘッドとともに企てた『プリンキピア・マテマティカ』ではラッセル自身、このパラドクスを回避しようと試みたのだが完成することはなかった。
のちに、当時25歳だったクルト・ゲーデルが発表した論文「『プリンキピア・マテマティカ』および関連する体系についての形式的に決定不可能な諸命題について」で、有名な不完全性定理を証明した。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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