日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ピアリス』
『ピアリス』
萩尾望都 河出書房新社 ¥1,450+税
(2017年7月14日発売)
先頃『ポーの一族』の新作『ポーの一族~春の夢~』が刊行され、萩尾ファンが狂喜するなか、もうひとつ歴史的な書が届いた。
『ピアリス』は、萩尾による幻のSF小説。1994〜95年にかけて「The Sneaker Special」という季刊誌に連載されていた本作は、当時「作・木下司 挿絵・萩尾望都」とクレジットされていたもの。ほかに小説を発表していない木下司とは何者なのかと疑問を抱いていた読者は多かったであろう。その正体が萩尾であったことが、今初めて明かされる!
もちろん書籍化も初である。
このくわしい事情については、巻末に収録された萩尾インタビュー「SF作家の木下さん、実は私でした」で。
本作は、過去が見える能力を持ったピアリスという少女と、未来が見えるユーロという少年の物語。2人は双子なのだが、内乱から故郷のアムルー星を離れざるをえなくなり、5歳の頃から生き別れとなっている。
修道院に引き取られたユーロはアムルー人特有の体質のため、同じ年頃の少年たちとなじめず孤独を抱えて暮らす。数年を経て、修道院にやってきた教師のセルと運命の出会いを果たし、ようやく生きる目的を得るのだが……。
一方のピアリスは、身寄りのない子どもを引き取って暮らす女性のもと、活発な少女に育つ。しかし、居住するのは「9×7」と呼ばれる、“その世界”では身分制度的に最下層のエリアだ。不穏な事件、警告を伝えるロボット……キナ臭い空気に包まれるなか、ピアリスの脳裏によみがえる過去のビジョンは何を告げているのか!?
幼くして離ればなれになりながらも、ピアリスとユーロはしばしばお互いのことを思う。双子といっても外見はまるで似ていないし、体質も違う。しかし、それぞれに備わった過去・未来のビジョンが見える一対を成す能力が、2人を結びつけているのだろうか。
残念ながら本作は未完に終わっており、大きな謎は明かされないままだが、1章ごとにユーロとピアリスの一人称で語られるエピソードは短編として味わうことができる。カラー口絵8ページ、イラスト40点を収録、萩尾ファンは必携のお宝本だ。
ちなみに萩尾望都名義で発表された小説集『美しの神の伝え』(河出文庫)も8月8日に発売されるとあって、がぜん小説家・萩尾望都にも注目したくなる。本作の続きを読みたい読者は、ともに熱いラブコールを送ろう!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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