自分を見失った「透明人間」の少女に大食い少女、マトリョーシカにふりしきる雨……。王道恋愛少女マンガとはちょっと異なるユニークなヒロインと独特の空気感、巧みなストーリー展開でファンを魅了する安藤ゆき作品。ファン待望の4年ぶりとなる短編集『透明人間の恋』が「このマンガがすごい!2014」オンナ編にランクインするなど、今、熱い注目を集める安藤ゆき先生が登場!
読み終えたあとに、心にきらりと光る欠片のようなものが残る作品を作りたい
――『透明人間の恋』はとてもクオリティの高い短編集だと思います。長さもそれぞれ、ヒロイン像もさまざま。ていねいに作られたおいしいお菓子の詰め合わせみたいな印象です。収録作1編ごとにうかがっていきたいと思います。 冒頭の「そこは注文の多い料理店』」……とても短いけれど夢のようで、洒落たストーリーですよね。
安藤 夢のようですか? うれしい感想です! これは「別マ」が“食”をテーマとした号で、担当編集者の方から宮沢賢治の『注文の多い料理店』を描きませんか、と提案されたんです。ですが私にとって8ページでそれは荷が重いと感じて……では『注文の多い料理店』というタイトルから想像する物語に、ということになって考えた物語です。
――料理店のメニューもとてもおいしそうです。モデルになったお店などはありますか?
安藤 お店のモデルは特にありません。メニューは季節感の際立つものを意識しました。
――安藤先生は、外食に行くならどんなお店が好きですか?
安藤 私自身は食べ物そのものが大好きなので、B級店も高級店も大好きです。といっても高級店はあまり縁がありませんが(笑)。
――これがちゃんと恋愛マンガになってしまうとことが驚きでした。まさに本家『注文の多い料理店』ばりの衝撃的なオチともいえますが、そこは当初から意識していましたか?
安藤 オチは『注文の多い料理店』を意識したというよりも、読者に少女マンガらしさをしっかり感じてもらえるかたちを、と思いました。
――少女マンガらしいといえばタイトル作の「透明人間の恋」。「地味な子が変身してかわいくなる」のは少女マンガの定番ですが、ヒロイン・田辺さんが“自分のことをも見失っている”という設定が新鮮で、また胸に迫りました。
安藤 この作品はまず“透明人間”というモチーフを設定して、「もし自分が他人から見られなくなったらどうなるだろう」と考えました。そこで「きっと、自分でも自分のことを見なくなるだろうな」と思い……まさにそこを軸に主人公の田辺さんが生まれました。田辺さんはとても気に入っているんです。いちばん特殊な環境のキャラクターだからだと思います。
――田辺さんが変身しても「変わらなかった」部分に、鈴鹿だけが気づいてくれるというところがたまりません。鈴鹿は、いつごろから田辺さんを意識するようになっていったのでしょう?
安藤 恋というわけではありませんが、異性としては最初から意識していたと思います。手つかずの容姿で告白してきた時に腹を立てたのは、そのためだったんじゃないかなと。
――この作品を通じて、読者にどんなことを感じてもらいたいと思いましたか?
安藤 この作品にかぎらずですが、読み終えたあとになにか、心にきらりと光るかけらのようなものが残る作品を作れたらなと思っています。ポジティブな作品をという意味ではないのですが……。精進します!
――10代だけではなく大人もハッとするような「自分発見」の物語ですよね。安藤先生は、自分に対して「本当はこうだったんだ」と驚くような発見をした経験はありますか?
安藤 自分発見はわりと頻繁にあります。なんて……自分発見どころか年々、自分って自分のことを全然わかっていないんだなぁと感じています。人に言われて知る“びっくりするような自分”っていますよね。