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安藤ゆき『透明人間の恋』インタビュー前編 心にきらりと光るかけらが残る作品を描きたい

2014/10/03


「人に歴史あり」と思わせるエピソードを描くのが好き

――「マトリョーシカ」は10代の初々しい恋物語ですね。この作品はどのような構想から生まれたのでしょうか?

たくさんの人形を開けて最後の人形が現れるマトリョーシカは、ともに過ごした長い年月を思い返しようやく本心にたどりつく2人の関係そのもの。

たくさんの人形を開けて最後の人形が現れるマトリョーシカは、ともに過ごした長い年月を思い返しようやく本心にたどりつく2人の関係そのもの。


安藤 ズバリ「マトリョーシカ」です。友人からもらったフランス土産のマトリョーシカをもて遊びながら考えました。あれ、そういえばマトリョーシカってロシアの民芸品なのになんでフランス土産だったんでしょうね(笑)。

――つきあいの長い2人の高校、中学、小学校時代のさまざまな過去のシーンがちりばめられている構成がドラマティックです。ラストに収録されている「drops.」にも通じますが、こうした構成がうまいですよね!

ピアスをプレゼントした高校時代、文化祭の劇中でハプニング・キスをした中学時代、マトリョーシカをもらった小学校時代……。すべての記憶をたどってたどりつく結末に感動必至!

ピアスをプレゼントした高校時代、文化祭の劇中でハプニング・キスをした中学時代、マトリョーシカをもらった小学校時代……。すべての記憶をたどってたどりつく結末に感動必至!


安藤 好きでもあり、個人的に楽な作り方です。楽だから好きなのかも……?この、惚れっぽいのになかなか本当の恋心に気がつかなかった遊里という男の子は気に入っているキャラクターです。いちばん率直なキャラクターかなと思いますので。

19歳にして15人もの彼女と別れた惚れっぽい男、遊里。自分の気持ちに関して「天才的アホ」な遊里には母性本能をくすぐるかわいさがある。

19歳にして15人もの彼女と別れた惚れっぽい男、遊里。自分の気持ちに関して「天才的アホ」な遊里には母性本能をくすぐるかわいさがある。


――ちなみに先生がカッコいいと思うのはどんな男性ですか?

安藤 男性にかぎらずなのですが、真摯に仕事をしているただなかにいる人をもれなくかっこいいと思います。なにげなく垣間見えたプロフェッショナルな瞬間には特に「ああああ~!」となります。

――「そこは注文の多い料理店」のシェフがまさにそのタイプですね!  この作品では小学校から高校までの回想シーンも鮮明で印象的です。先生の経験や自分自身が反映されているところはありますか?

安藤 実体験や私自身のキャラクターというのは、どの作品にも小さく散らばっていると思います。ストレートなものもあればかたちを変えたりしながら。私は学生時代、小学校から専門学校まで一貫して遅刻魔でした。分単位でなく時間単位での遅刻でしたので……今はもったいないことをしたなぁと思っています。

――「勝手な2人」は、独特な価値観を持ったマイペースな2人のキャラクターが魅力的です。2人ともいわゆる「自分勝手」ではなくて……ああ、こういう意味だったのかと読み進めていって納得のタイトルです。本作に限らずですが、安藤先生のキャラクターは「個人のちょっと変わった部分」を拾い上げていると思うのですが、それができるのはなぜでしょうか?

 
見た目に反して超大食いの女子高生と、毎回彼女が友達とひっつく無愛想な男子高校生。そんな2人のラブストーリーとか展開が読めなすぎる!

見た目に反して超大食いの女子高生と、毎回彼女が友達とひっつく無愛想な男子高校生。そんな2人のラブストーリーとか展開が読めなすぎる!


安藤 「ちょっと変わった部分」という意識では描いていないのですが、短いスパンでどこをピックアップすれば読み手に引っかかるかな、好感を持ってもらえるかな、ということを超個人の感覚で描いていると思います。……ですがみなさんきっとそうですよね。月並みですみません(笑)。

――2人がお互いに、自分と似た「自分より相手を大切にしすぎる」性質を理解しあっていく会話も読みごたえがあります。そして、なんといってもラストで、ようやく「したいことをする」要くんがとてもかわいかったです。そのキャラならではの演出は自然に思いつくものですか?

無愛想で口下手な要くんの「したいこと」がこれとは!それまでとのギャップに胸きゅん!!

無愛想で口下手な要くんの「したいこと」がこれとは!それまでとのギャップに胸きゅん!!


安藤 ちょっと強引な展開も、前後の自然さがあれば受け入れてもらえると思うので。そういったベースにキャラクターを乗せていくイメージです。

――そして、単行本のラストを飾る「drops.」ですが、ひとつひとつの短いエピソードを読んでいくうちに、「あれ? もしかしてつながってる?」と気づかされ。伏線が回収されてラストで驚かされ……一分のスキもない名作だと思います! この作品はどのように考えられたのですか?

「雨」以外にも物語の重要なキーとなるアイテムが「傘」「指輪の飴」「5時55分」。その使い方の巧みさには脱帽。

「雨」以外にも物語の重要なキーとなるアイテムが「傘」「指輪の飴」「5時55分」。その使い方の巧みさには脱帽。


安藤 名作だなんてとんでもないですが……でもうれしいです、ありがとうございます。雨をモチーフにオムニバスを描こうと思い、そこに「人に歴史あり」という個人的に好きなテーマが乗り合わせてきて発展して……という感じで考えました。

――この作品を描くうえで苦労したのはどんなところでしょうか。

安藤 「drops.」は今まで描いてきたなかで一、二を争うほど苦労がなく、つるつるっとできあがった作品なんです。

――ええ、そうなんですか!? こんなに緻密に組み立てられているのに? とても信じられません!

安藤 ただ、本当はもうワンエピソードあって、それはさすがに全体的に長くなりすぎるだろうということでまるまるカットせざるをえなかったのが、当時は少しさびしかったですね。

――随所に差しこまれる、水滴がポツリと落ちていく描写も雰囲気があって、ドラマの世界に引きこまれます。こうした場面へのこだわりは?

雨音までもが聞こえてきそうな雨と水滴は、視覚だけでなく聴覚にまで訴えかけてくるよう。

雨音までもが聞こえてきそうな雨と水滴は、視覚だけでなく聴覚にまで訴えかけてくるよう。


安藤 いろいろと演出力不足で狙ったような効果がないのですが、おおまかに言ってしまうと読み手の意識をいかに切り替えられるかだと考えています。

――本当にステキなシーンばかりですが、特に気に入っているエピソードを教えてください。

安藤 飴の指輪でプロポーズをするというエピソードは、描いていて気持ちがよかったです。描きやすかったといいますか。

――ビジュアル的に特に力の入ったページはありますか?

安藤 暗闇でのキスシーンは物語のクライマックスであり、それ自体少女マンガの要だと思うので印象的な画面になるように意識しました。

聞こえるのは雨音だけのとても静かなキスシーン。まるで映画のワンシーンを見ているようでうっとりしてしまう。

聞こえるのは雨音だけのとても静かなキスシーン。まるで映画のワンシーンを見ているようでうっとりしてしまう。


――『drops.』のように短いエピソードをつないでいく物語で、自然にキャラの性格や状況がすっと伝わってくるのはすごいと思います。表現するうえで意識していることは?

安藤 これも月並みかもしれませんが、キャラクターの説得力を手伝うビジュアルを心掛けています。演出のひとつだと思いますので。ですが、単に好みや気分で描いている時もあるかもしれません。

――『透明人間の恋』が「このマンガがすごい!2014」オンナ編17位にランクインしたことについてのご感想はいかがでしたでしょう?

安藤 うれしかったです!「ラッキー!」と思いました。あ、重版[注1]という恩恵を受けました。ありがとうございます! えへへ。


  • 注1 重版とは出版業界用語のひとつで、好評につき追加して印刷・発行すること。「増刷」もほぼ同義。

次回、最新読みきり『昏倒少女』や気になる今後についても直撃!

単行本情報

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