日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『第3のギデオン』
『第3のギデオン』 第6巻
乃木坂太郎 小学館 ¥552+税
(2017年7月28日発売)
フランスは、かの大いなる革命を目前に迎えていた。
第一の身分、聖職者。
第二の身分、貴族。
そして第三の身分、平民。
この3つからなる身分制議会に平民の議員として加わり、国の困窮をなんとか救おうとあがく主人公・ギデオンが、思想の違いと出自をめぐる複雑な事情から決別した親友の貴族・ジョルジュと人生を対比されつつ動乱の時代の生き証人となっていく『第三のギデオン』。
その単行本第6巻が発売中である。
ロベスピエールを始めとする実在の人物たちに、親子愛憎のこじれなど情感の軸をたっぷり仕込みながら、バスティーユ牢獄襲撃という有名な出来事を描いた前巻までの流れに続き、最新巻ではルイ16世が妻、マリー・アントワネットと妹・エリザベートの情念に振りまわされ、苦悩するさまが見どころとなっている。
私的な愛を望んでも王であることを最優先する夫に失望と嫌気を抱き、けれど表面的には偽りの愛を見せるマリー。
平民にも分けへだてない博愛を見せながら、そのじつすべてはひたすら兄に愛され興味を独占することだけが目的のエリザベート。
他人のウソを見抜く能力を持つ国王は、自分に向けられる感情の複雑さと、夫としての自分のいたらなさに困り果てていく。
ここで、妻に見捨てられた経験を持つギデオンと身分を超えた相談相手というか、グチりあいの悪友のようになる光景が、ある意味でほほえましい。
国王やギデオンの夫婦(男女)問題に、女性という存在へ人間として向きあいかねた男たち全般の姿を重ね、さらに「人権宣言」が白人男子のものでしかなく女性が取りこぼされているという、女性たち自身の不満が国をおびやかすところまで構図を大きく引いていく手際が見事で、ミクロとマクロを柔軟に行き来する歴史劇の醍醐味を堪能できる。
身分制を破壊せんと暗躍する扇動者になったジョルジュが後押しする女権活動の波に、ひとり娘や元妻までもが呑みこまれたギデオンはどうするのか。
ここのところ、歴史の立会人のような位置に控え気味だった主人公に次々とひとごとでない状況がかぶさってきて、興味深さを増したところで次巻へと続く。いやー、楽しみですね。
以下余談。
ルイ16世とマリー・アントワネットの子女のなかに、マリー・テレーズ・シャルロットという娘がいる。
『第3のギデオン』にもちらほら出ているのだが、このお姫様をメインタイトルとしているのが、そう、「週刊少年ジャンプ」で連載中の少年マンガ『腹ペコのマリー』ですね。
まったく性質やジャンルが異なるマンガを横断して同じ人物をたどることができるのも、歴史モノの楽しみだ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム35年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論 増補改訂版』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7