『数寄です! 女漫画家 東京都内に数寄屋を建てる』第1巻
山下和美 集英社 \838+税
10月19日は「住育の日」。10月が「住宅月間」であること、「10(じゅう)1(い)9(く)」の語呂合わせから、日本健康住宅協会が制定。
「住育」とは耳慣れない言葉だが、文字どおり“住宅についての教育”のこと。どんな住まいでどんなふうに暮らしたいのか、住宅から健康な生活を考えることの大切さをアピールするための記念日なのだ。
本作は、まさに「こんな暮らしをしていていいのか?」「都会のなかでも山中にいるような静けさを感じたい」という思いに突き動かされ、「東京都内に数寄屋を建てる」という大仕事に取り組んだ漫画家・山下和美の実録エッセイコミックである。
山下和美は『天才柳沢教授の生活』や『不思議な少年』などの代表作で知られる大ベテラン作家。デビュー以来、休むことなくひたすら執筆に力を注ぎ続けてきた作者は、ふとその生活ぶりに疑問を持つ。
己の心の底をのぞいてみれば、そこに浮かぶのは“和”の暮らし。そんなとき、ひょんなことから大学院で数寄屋の研究をしていた建築士と知り合ったのは運命としか言いようがない。こうして作者は決断するのだ。自分の家を建てる、それもなんちゃって和風建築ではない本気の“数寄屋”を建てることを!
“数寄”とは、茶の湯や生け花など風流を好むこと。数寄屋はもともと風雅を楽しみ、人をもてなす茶室である。現代で“数寄屋”というとこのスタイルを取り入れた住宅様式を指す。
内面の精神性を重んじる数寄の世界では、これ見よがしの装飾は御法度。一見簡素に見えて洗練を極めるのが、数寄者(すきしゃ)のあり方である。
数寄屋にふさわしい主として和の文化を学びつつ……まずは土地選び、そして資金繰りからスタート。熱く高い志を持った建築士と二人三脚でこだわりの家造りに挑むさまは、貴重なドキュメンタリーにして一大エンターテインメントだ。
刊行中の続編『続 数寄です! 女漫画家 東京都内の数寄屋で暮らす』も、ぜひ。
無事に引っ越した後も、内装や維持管理などの課題は残る。調度品や食器など“容れ物”にあったしつらえを整えることも……内実ともにホンモノの数寄者となっていく作者の姿をどこまでも見届けたい!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」