『ゴルゴ13』第45巻
さいとうたかを リイド社 \486+税
1978年11月18日、この日はアメリカのキリスト教系新興宗教である「人民寺院」が、移住先のガイアナで914人もの死者を出す集団自殺を決行した日。
これを機に「カルト」という言葉が生まれたとも言われている、犯罪史に残るショッキングな事件だ。
教祖のジム・ジョーンズは、当初はそれなりにマトモな信条を持った人物であったが、次第に自己の欲望を満たすためだけに信者たちを利用するようになりはて、司法当局に追い詰められた末に「革命的自殺」と称してシアン化合物入の水を信者に飲ませた……とのこと。これ以上、人民寺院についてここで詳細に触れるにはスペースが足りないので割愛するが、この事件を下敷きにしたフィクションは数多いので、概要ぐらいは知っておいて損はないだろう。
もちろんマンガの世界でも、ガイアナの集団自殺をモデルにしたエピソードはたびたび登場している。そのなかでも特に注目したいのは『ゴルゴ13』第159話「地獄からの生還者」だ。
フィクションでこういった事件を題材とする場合は、たいがい少し名称などを変えてあったりするものだが、なんとこのエピソードでは、当然フィクションとことわりはあるものの、人民寺院やジム・ジョーンズといった名前がそのまま登場している。しかも、実際の事件では拳銃自殺したジョーンズが、劇中ではゴルゴ13によって射殺されたことに!
さらに劇中では、集団自殺がとある部隊による虐殺を偽装したものとなっていたり、虚実入り混じった物語が非常に興味深い、傑作エピソードである。
なお、ゴルゴ13が実在の人物を明確に射殺する描写はかなりレアケースであり、そんなトリビア的な意味でも必読。
『ゴルゴ13』は確立されたキャラクターの魅力もあるのだが、こういった現実の事件や国際情勢などとリンクしたエピソードの数々も読んでいて楽しい。
とりあえず今なら、エボラ出血熱に感染したゴルゴ13が驚きの方法で生還する「病原体・レベル4」(SPコミック第114巻に収録)がオススメ? もっとも、ここでのサバイバル術は、一般人にはなんの参考にもなりませんけど……。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。