『冷馬記』第1巻
山上たつひこ(作)喜国雅彦(画) 小学館 \552+税
(2014年10月30日発売)
『喜劇新思想大系』『がきデカ』の山上たつひこが原作、そして『傷だらけの天使たち』『mahjongまんが王』の喜国雅彦が作画を担当……という、ギャグマンガ界のビッグネームによる奇跡のコラボ作品。
その取り合わせだけで大きなインパクトだが、内容もなかなか一筋縄ではいかない。
単行本の帯には「文学的ギャグ漫画」とあるが、「わかったような、わからない感じ」がにじみ出ているような……? とにかく、なかなかひと言で的を射た紹介は難しい作品である。
大筋としては「心で思ったことがいつの間にか口に出ている」という癖(と妄想癖)を持つ男が、顔面が斜めに歪んだ義弟をお供に、男を狂わせる女・則子を追っての珍道中。
性欲だけは旺盛なおっさんによる、ロードムービー的な味わいの長編ギャグ……と言えば、多少はテイストが伝わるだろうか。
ひとつ確実に言えるのは、「おっさんのドリーム」が詰まったマンガだということ。
家賃収入でブラブラしている主人公、決して夫婦仲が悪いというわけでもなく、でもひとりの時間や外泊には寛容な奥さん、そして第一印象はケバかった女がじつは清楚系でかつ自分に気がある様子──とまぁ、こうやって並べると笑えるぐらい都合のいいことばかりなのだけれど、実際はなにひとつコトはうまく運ばない。
そこに生まれる「おっさんの悲哀」は、ある程度、人生の歳月を重ねた人には「あぁ、なんか、わかるなぁ」と、しみじみ響くかと思う。
性衝動だけは情熱的ながら、全体的には枯れた味わいの本作。
まったくもって「不条理」としか言い様がない出来事を起こしつつ続く旅路は、正直、なにがおもしろいのか明確にはわからないながらも、続きが気になることだけは間違いないのである。
人生の下り坂を「まぁ、こんなもんでしょ」とエンジョイしているおっさんと、そんな生き方に憧れる「おっさん好きな人」には、特に強くオススメしておきたい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。