『マンガ日本の古典25 奥の細道』
矢口高雄 中央公論新社 \629+税
ゴールデンウィークは終わっても……新緑が美しいこの季節はどこへともなく出かけていきたい気分にかられてしかたない。
5月16日は、旅の日。1689年のこの日、俳諧師・松尾芭蕉が『奥の細道』の旅へ出発したことにちなみ、1988年に日本旅のペンクラブが制定した。
芭蕉が弟子をともなって奥州・北陸を歩いたこの旅は5カ月にも及ぶ。
各地の名所や和歌に詠まれた旧跡などをめぐる旅の様子を綴ったのが、紀行文学の最高峰といわれる『奥の細道』である。「月日は百代の過客にして、行きかふ人も又旅人也」という有名な序文を知らない人はいないだろう。
「夏草や兵どもが夢の跡」「閑さや岩にしみ入る蝉の声」などの句もこのときに生まれている。
そこで紹介するのは名著『奥の細道』をみごとにマンガ化した作品だ。
本作を含む「マンガ日本の古典」シリーズは全32巻。『古事記』(石ノ森章太郎)、『好色五人女』(牧美也子)、『怪談』(つのだじろう)、『東海道中膝栗毛』(土田よしこ)等々……作品×マンガ家の組み合わせが絶妙でそそられるタイトル多し!
東北は秋田県出身、そして『釣りキチ三平』で知られるように自然描写に長けた矢口高雄が描く『奥の細道』も大ハマリだ。
当然ながら約2400キロにわたる道ゆきはすべて徒歩。行きかう人もない山のなか、草を踏み分けひたすらに自然とのみ対峙しながら歩く……静寂とひなびた味わいを体感せしめるような画面運びはさすがのひとことに尽きる。
松尾芭蕉の生まれや人となりがわかるエピソード、矢口高雄ならではの解釈も差しこまれる配慮の行き届いた構成も光る。
いにしえの旅を楽しみ、古典を身近に感じさせてくれる1冊である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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