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5月18日は国際博物館の日 『黒博物館 スプリンガルド』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/05/18


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『黒博物館 スプリンガルド』
藤田和日郎 講談社 \590+税


「国際博物館の日」。ICOMこと国際博物館会議が1977年に制定した記念日だ。
世界各国の博物館がこの前後の時期、博物館の存在感をより強め、その役割を周知することをめざして様々な企画を行っている。

今回はその「博物館」をタイトルにふくむ『黒博物館 スプリンガルド』をとりあげてみたい。
傑作『うしおととら』の藤田和日郎による、伝奇的犯罪サスペンスである。

内容は、2つの題材が結びついている。
ひとつは、19世紀大英帝国を騒がせた「ばね足ジャック」。足底にスプリングのついた靴を履いて宙高く跳ね回り、世間を恐怖に陥れた都市伝説上の怪人だ。
もうひとつは、ロンドン警視庁に実在する資料館「ブラックミュージアム」。切り裂きジャックなど有名なものをふくんだ無数の事件から得た証拠品を、警察関係者のみ閲覧可で所蔵している。

この「黒博物館」をひとりの男が訪ね、ばね足ジャック事件の詳細を学芸員(キュレーター)の女性へ語る、回想形式で本作は進行していく。
当初はただ人を驚かすだけだったジャックがなりをひそめた後、残酷な殺人鬼として再出現した理由とは? 享楽的で型破りな青年貴族の抱える秘密とは? ジャックに狙われたメイドと弁護士の身分違いな婚約の行方は?

……と、盛り沢山の要素を力強くまとめあげ、読者の興味をぐいぐいそそるのがさすがの藤田節。
回想の聴き手である学芸員が「それでそれで!?」とかわいらしく食いつく姿を要所にはさむのがよいアクセントになっている。

博物館の機能のひとつに、大衆の知らぬ異郷の事物を披露して驚異を生み出し、知的興奮をもたらす教養効果がある。
しかし同時にそれは、教養を建前に興奮のほうを主とする娯楽……“見世物”の需要と背中あわせだった。
特に欧米において大昔のサーカスや演芸巡業はしばしば「移動博物館」という名目を掲げることがあった。
娯楽としての博物館、教養としてのサーカス。矛盾ではない。現在の欧米のエンタメ産業まで脈々とつながる文化のしたたかなありかたである。

『黒博物館 スプリンガルド』の黒博物館も、博物館と見世物小屋の性格を両面あわせて描かれている。だから心に迫るドラマと、ワクワクする興趣が両立されるのだ。
そう考えると、藤田氏の作品歴で『からくりサーカス』と本作がほぼ立て続けなのは意味深い印象がある。

ちなみに現在、別の題材によるシリーズ第2弾『黒博物館 ゴーストアンドレディ』が「モーニング」誌上で連載中。
ある史実の女性と幽霊男のコンビ物で、また別の意味で驚かされる仕立てになっている。こちらの単行本化も待ちどおしい。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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