『サーガ』第1巻
ブライアン・K・ヴォーン(作) フィオナ・ステイプルズ(画) 椎名ゆかり(訳)
小学館集英社プロダクション \1800+税
(2015年5月27日発売)
アイズナー賞とハーベイ賞をご存じだろうか?
これはアメリカにおける、もっとも権威のある2大マンガ賞のこと。芸術性が高く、ストーリーやアートの面も含めて、この賞を取れば「傑作」のお墨付きがもらえるといっても過言ではない。
そんな2大マンガ賞において、2013年、2014年に多数の部門賞を受賞して話題となったのが、本作『サーガ』だ。
『サーガ』は、2大出版社DCとマーベルに次いで認知度の高いイメージコミックスから出版されているが、いわゆるスーパーヒーローコミックスではなく、大人向けのストーリー重視で描かれるグラフィックコミックスに分類される作品。
これまでの傾向からすると、アイズナー賞やハーベイ賞を受賞する作品は、複雑な構成で難解なストーリーのものが多かったりするが、『サーガ』に関しては、驚くほどシンプルで読みやすい。
舞台となるのは、銀河最大の惑星である“ランドフォール”とその衛星“リース”という2大天体が存在する宇宙。
ランドフォールは科学を、リースは魔法を使う種族が住み、彼らは宇宙全体を巻きこみ戦いを続けていた。
ランドフォール出身の女兵士アラーナとリース出身のマルコは、種族の壁を越えて恋に落ち、ひとりの子を設けた。この事実を知った両陣営は、それぞれの理由で家族3人の追跡を開始。追われる身となったアラーナとマルコ、そしてその子どもは、安住の地を見つけるべく逃避行を始める。
望まれない形で生まれた家族が、逃避行のなかで様々な人や事件と出会うという「ロードムービー」的な物語だが、タブーを破った彼らの行動が引き金となり、周囲にも様々な影響が生まれる様子が描かれているのだ。
シンプルながらも作りこまれた世界観とキャラクターは、日本のマンガシーンとは異なるアートと相まって、独特の空気を味あわせてくれる。
人種差別や価値観の違い、そこに子育てや夫婦問題など身近な現象を織り交ぜることで、アメリカの抱える問題やメンタリティなどを浮き彫りにしている物語はやはり秀逸。
ほかのアメコミに比べると取っつきやすい内容でもあるので、現在のアメリカのコミック文化が、どのようなものを評価し、それが売れているのかの一端を、本作を通して知ることができるはずだ。
<文・石井誠>
アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ『マーベル特集』などで執筆。翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを2年以上にわたって執筆中。