『温泉街のメデューサ』第1巻
轍平 集英社 \500+税
(2015年6月4日発売)
人に近づいてコミュニケーションを取れない人を、最近は「コミュ障(コミュニケーション障害)」と呼ぶことがある。病気ではないです。
であれば、このマンガのヒロインは「メデュ症(メデューサ症候群)」だ。参ったか。
ヒロインの高校生・加賀智巳里(かがち・みさと)は、頭(というか髪)が蛇になってしまう「メデューサ症候群」の高校1年生の少女。目があうと相手を石にしてしまうので、特殊レンズのメガネをかけて、なるべく人を避けている。
友だちをつくることすらままならない。そんな彼女に、蛇大好き少年のクラスメイト・不動くんが話しかけてくる。
今まで人との接触を避けてきていた加賀智。いっぽう不動は好きなもの嫌いなものを裏表なくバシバシいう性格。蛇が好きなので、加賀智に近づいてきていつもいっしょにいるようになる。
最初のうちは加賀智も、不動を警戒しており、あまり蛇の話題に触れられたくないと感じていた。
ところがあまりにも彼がオープンで、蛇だけでなく自分に心をひらいてくれているので、彼女自身がすっかり不動といるのが楽しくなり始めてしまう。
たとえば加賀智が不動と朝出会って、一緒にクラスに向かうシーン。
男女2人が並んで歩いたら、たいてい考えるのって「恋人みたい……」だと思う。
しかし彼女は違う。「廊下一緒に歩くなんて友達みたい……」
「メデュ症」は、「コミュ障」を記号化した表現だ。
自分は特別で、人に迷惑をかけてしまって、だれにも近寄れない。メデューサだから。
しかし作中では、不動はまったく迷惑なんてかかっていないし、加賀智のことを純粋に恋する少年も出てくる。
石化しないように気を使ってメガネをかけているのだもの。彼女はだれにも迷惑をかけていない。
髪の毛が蛇だというのなんて、単なる個性のひとつだ。
ただ一点だけ、筆者が残念なのは「温泉街」と書いているのに、温泉が現時点では関係ないことだ。
ぼくは、温泉に入ったり浴衣着ている加賀智さんが見たいんだ!
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」