『小玉ユキ短編集1 マンゴーの涙』
小玉ユキ 小学館 \400+税
7月15日は「マンゴーの日」。
昭和生まれの筆者の子ども時代にはマンゴーなんて見たこともなかったけれど、今ではすっかりポピュラーな存在だ。どこのスーパーにも並ぶし、マンゴーデザートも夏の定番となっている。
さらに栽培技術を磨き、マンゴーを広めていきたいという思いから沖縄県農水産物販売促進協議会が2000年に制定。7月15日を選んだのは、収穫時期のちょうど中頃で、最盛期の直前であることからだそう。
そこで紹介する『マンゴーの涙』は、『坂道のアポロン』、『月影ベイベ』などで知られる小玉ユキの味わい深い初期短編。
舞台はベトナム。ヒロインのマンは16歳で、おばさんの営む朝食専門の食堂を手伝っている。友人・フンの彼氏が連れてきた大学生・ティエップは小綺麗でいかにも裕福そうな男の子。
マンは初対面でいきなり「お金持ちの人って好きになれないわ」と言ってしまうのだが、徐々に彼のことが気になって……。
そんな2人の初デートのきっかけになるのがマンゴーだ。
ティエップに道で「マンゴー食べない?」と声をかけられ、2人は仲よくベンチに腰かける。そして、マンはティエップのバイクの後ろに乗り……初恋はサイゴンの町を駆けるのだ。
川沿いの道を自転車で行き交う人々、町の屋台、木々の葉が落とす濃い影。風景の描写も秀逸で、まるで映画を観ているような雰囲気を感じさせる。
少女の純な恋心と、甘いマンゴーの味がとろけるように調和した珠玉の一編である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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