『デュラハンちゃんは首ったけ』第1巻
木村光博 双葉社 ¥620+税
(2015年7月10日発売)
デュラハン。
アイルランドの伝承にいう、首なしの胴体が自分の頭を脇に抱えた精霊である。
本作の主人公・愛條デュラハン(いとしの・でゅらはん)も、その名のとおり首と胴が分離しているデュラハン少女だ。
おおまかなジャンル感ではいわゆる「モンスター娘」に該当するが、デュラハンちゃんの首がとれることを人間離れしていると受け取る人物は出てこないので、作品世界においては「デュラハン=モンスター」というわけではない点に注意したい。
これは、造形の奇抜さとは裏腹に、あくまでどこかにいるただの女の子の、思春期についての普遍的な寓話なのだ。
デュラハンちゃんは現在、中学に上がったばかりの12歳。
肉体は第二次性徴を迎えて成熟するいっぽう、心は本格的な恋愛や友情がどんなものかまだつかみきれない幼さを残している。
そういうふうに、心と体がズレてアンバランスな少女が、実際に頭と胴体がバラバラになる姿で描かれる、この不思議な説得力!
心に反して「身体が勝手に」動く、という言いまわしがある。
デュラハンちゃんの場合は本当に、物理的に、身体が勝手に動くのが悩みのタネだ。
大好きな男の子を前にして、もっと親しくなりたいのに身体が勝手に首をつかんで逃げ出す場面。
いじめっ子に「ツラかせ」と脅され、抵抗しようと思ったのに怯えた身体が勝手にすっと首を差し出す場面。
身体には身体の人格があるように描かれる一連のシチュエーションは、思春期の描写として的を射ている。
さらに、好きな男の子とは別の男の子に助けられたボディが、そちらへ好意的な反応を示す展開に入って以降、寓話としての切り口は抜群に鮮やかになってくる。
心ではあの人が好きなのに、身体はあっちの人を求めてしまう!
大人なら割りきりようもあるが、デュラハンちゃんはまだ12歳。自分(の心)で自分(の肉体)が許せず、自分は不純なのかと不安に陥る。
読んでいる我々は、彼女の頭とボディどちらの都合もわかるため、いったいどちらを応援すればいいやら……いや、どちらも応援したくなり、悩ましい。
劇中、保健室の先生がこんなアドバイスを贈ってくる。
「心を震わせ 身体で感じなさい それが思春期の特権よ
そうやって 皆 大人になっていくの」
心のゆらぎ、身体の反応。
つまりはどちらも思春期の一面であり、それらをまるごと受けいれること。
それがデュラハンちゃんの歩んでいる道であり、この作品を読む者だれしもが歩んだことのある、または歩いている最中の道である。
だからこそ、彼女の首と胴体が繰り広げる騒動はにぎやかでコミカルなのに、深くしみじみともするのだ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7