海外コミックと言ってすぐに思いおこされるのは、マーベルコミックのスパイダーマンやアベンジャーズ、あるいはDCコミックのバットマンやスーパーマンといった、いわゆる“メインストリーム”のスーパーヒーロー作品、という人が多いはず。
これらの作品群が、複数人による分業制で完成するのに対し、主にひとりの作家による単独作業で制作されるインディペンデント系のコミックは、「オルタナティヴ・コミック」と呼ばれます。
成人読者を対象とし、実験的な作風などが多く見られることも特徴的なオルタナコミック。その強烈なオリジナリティから、日本のマンガファンのなかにも熱烈な愛読者が存在するのです。
今回は、映画評誌「Bootleg」代表で、ブログ「ゾンビ、カンフー、ロックンロール」を運営する、映画ライターの侍功夫さんに、注目のオルタナティヴ・コミックを3作品、挙げていただきました。
侍功夫さんイチオシの3作品
『CARICATURE』ダニエル・クロウズ
『CARICATURE 日本語版』
ダニエル・クロウズ(著)中沢俊介(訳) PRESSPOP GALLERY ¥1,980+税
(2005年5月1日発売)
『ゴースト・ワールド』のダニエル・クロウズによる短編集。
若い女の子に翻弄される巡回サーカス屋台の似顔絵描き。60年代サブカルチャーを至上とする若者。自己評価が異様に高い女優志望の女など。
劇的に終わることも、輝かしい未来を手にすることもなく、地獄のように平凡な日々をただ送り続けていく様子を情け容赦なく描く。
渋谷直角(『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』ほか)が今のスタイルを推し進めた先にいるのがダニエル・クロウズであろう。
『HATE』ピーター・バッグ
『HATE 日本語版』
ピーター・バッグ(著)中沢俊介(訳) PRESSPOP GALLERY ¥1,350+税
(2002年8月22日発売)
作者自身を投影したとおぼしき主人公と、目的もなくその日暮らしを送るダメ悪友たちとの交友が描かれる。
自堕落で目的意識もなく、とはいえ自殺するほど絶望もしていない。居心地のよい部屋にたたずみ、持てあましたヒマをささやかな娯楽で埋める。減った腹を満たせる程度にバイトして、できるだけラクに日々をやり過ごしたい……。
こんな主人公に共感できないハズがない。
本書で描かれる主人公最大のピンチは「やりがいのある仕事と出会う」だ。
なんとおそろしい!
『旧約聖書 創世記編』ロバート・クラム
『旧約聖書 創世記編』
ロバート・クラム(著)笹野洋子(訳) 静山社 ¥1,500+税
(2011年9月13日発売)
人類の集合意識、あるいは歴史的意識といっていいものの奥深くに働きかける力を持つという、偉大な書物「聖書」を、作者が一字一句、できるかぎり忠実に再現したという作品。
気分屋で怒りっぽくて取っ組み合いのケンカも辞さない、近所のエキセントリックな爺さんのように、旧約聖書の神さまを描いている。実際の旧約聖書でもそうらしいのだが、クラムのウネウネと重ねられた細い線は、狂気をより一層濃厚に匂わせる。