日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『ちづかマップ』。
『ちづかマップ』第3巻
衿沢世衣子 小学館 ¥900+税
(2015年8月10日発売)
古美術商を営むおじいちゃんの影響で古いものにハマった女子高生・ちづかが、古地図を片手に知らない町を散策する一話完結シリーズ。
「町歩きもの」といえば『モヤモヤさまぁ~ず』や『正直さんぽ』をはじめ、今やテレビでも鉄板の人気ジャンルだが、ちづかの町歩きは、あくまで古き時代の面影を訪ねるという『ブラタモリ』や『東京時層地図』の世界を地でゆくシブさ。
たとえば、清澄白河にお届けものに行った帰り、訪問先のおばあちゃんに薦められて清澄庭園へ。
富士が見えるという情報に、江戸時代の地図を眺めながら「この辺り、江戸時代から埋め立て地で高台もないんだけど」と思案したり(結局は「見立て富士」というオチ)、明治時代、岩崎財閥により完成された庭園という由緒に、今度は明治時代の地図を見て「岩サキヤシキってあるよ!」と感嘆したり。古地図を媒介に目前の風景に遠い過去の風景を幻視する、“見るどこでもドア”なタイムトリップ感たるや、下手なSFより、よっぽどトリッピンで楽しい。
相撲部屋の幕下力士と交流したり、ひょんなことから倉庫街のギャラリーに迷いこみ、製造所直営のケーキをお土産にもらったり、過去の痕跡だけでなく現在の町の魅力もしっかり盛りこまれていて、読めば思わずたずねてみたくなる!
ちづかのゆるーい女子高生っぷりとマニアックな地理・歴史探訪エピソードの地続き具合も絶妙。したり顔のうんちくは皆無で、ピュアな好奇心や驚きがいきいきと伝わってくるのがイイ。
同級生のネオくん(彼女と別れた!)に加えて、赤穂で出会ったカイくんという気になる新キャラも登場し、新たな展開も期待できそうだっただけに、これで完結とは残念極まりない。
ペースはゆっくりでいいので、ぜひとも続編希望!です。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69