今回紹介するのは、『イエスタデイをうたって』
『イエスタデイをうたって』第11巻
冬目景 集英社 ¥600+税
(2015年9月18日発売)
足かけ17年にわたり連載された、青春コミックの傑作が、ついに単行本でも完結のときを迎えた。
カメラマンを目指しながらフリーター暮らしを続ける主人公・リクオと、ささいなきっかけで彼に好意を向けるようになった不思議少女・ハル、そしてリクオの片想いの相手である元同級生・シナ子(編集部注:「シナ」の字は木偏に「品」)の三角関係を軸としながら、周囲を取り巻く、あと一歩踏み出せない、変わることを思いとどまってしまっている人たちの姿を、じっくりと描いてきた本作。
この最終巻でも、その空気は大きくは変わらない。
ともすれば、物語をたたむときには、劇的な決断を登場人物たちにさせがちなものだが、本作においてはそうしたことはされなかった。
一人ひとりのキャラクターが、これまで自分が積み重ねてきた想いを丁寧に、じっくりと振り返り、よく考えた上で、多少の逡巡を覚えながらも、とりあえずの一歩を踏み出す。そんな、静かなクライマックスが描かれた。
あまりにも登場人物たちが、自分の想いにかたくな過ぎる。
もっと状況の変化に、素直に流されてしまってもよかったのではないか。変わりゆく自分を受けいれてもよかったのでは。
そんなことを思うのは、何かにつけて物事がうつろいやすい今の時代の価値観に、知らず知らずのうちに毒されすぎてしまったからなのだろう。
時代の空気に流されることなく、不器用だと思われようと、頑固に自分の心に従う。
そんな登場人物たちの姿は、現実社会でなかなかできることではないだけに、よけい清々しく、愛おしい。
そしてまた、彼らの姿勢は、ペースを崩すことなく、淡々と自分の世界を貫き続ける著者の創作に対する姿勢とも、重なって見えるのだ。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei