日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『あさはかな夢みし』
『あさはかな夢みし』第1巻
瀧波ユカリ 講談社 ¥590+税
(2015年9月23日発売)
大ヒット作『臨死!!江古田ちゃん』でおなじみ瀧波ユカリの最新作はなんと平安モノ!? あれっ、4コマじゃない!?
いろいろ意外ではありますが、著者独特のじわじわくるギャグセンスの輝きっぷりは期待どおり。タイトルからして、『源氏物語』をベースとしたかの大河ロマン『あさきゆめみし』(大和和紀)を知ってる人なら思わずニヤリとしてしまうはず。
ストーリーは、さる殿様の娘・夢子姫のもとに青年・小犬丸がつかわされる場面から始まる。
舎人(とねり)として夢子の身辺の世話をしながら、ご縁を探し出して結婚させるのが彼のミッションなのだが、この姫がただ者ではなかった! 色恋に無関心なわけではなさそうなのだけど、世間一般的な恋のあり方とはズレていて。『源氏物語』を開いてはゲスな妄想を繰り広げ……いや、何を見てもゲスな想像に結びつけてしまう精神的な変態お姫様なのである。
読書好きの夢子に本を売りにやって来る、本屋のくれ葉こそ日々の妄想の燃料供給源。
夢子の唯一の女友だちで、妄想をさらに焚きつけるから2人そろうとさらに始末におえない。
なぜかそんな夢子に惚れる酔狂な貴族青年(通称・露出狂の君)、夢子とは反対にビッチな姉など濃いキャラが続々登場する。
しかし、それでいて単なるトンデモ平安マンガではないのが、さすがである。
エピソードのなかに、教科書には載ってない貴族の雅なうんちくが自然に織りこまれていて、じつはしっかり平安時代を描いていることがわかる。もしかしたら夢子みたいなお姫様だってホントにいたのかもと思えてくる。
環境や暮らしぶりは違えど、人間ってそう変わるものじゃない。
いにしえの平安時代が身近に思えてくるという……想定外の感慨にたどりついてしまい、筆者も困惑しているのである(笑)。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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