日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『男子迷路 インアウト』
『男子迷路 インアウト』
阿仁谷ユイジ リブレ出版 ¥638+税
(2015年9月23日発売)
エロと笑いとせつなさ。
いっけん、相容れないもののように思える感情だけれど、それが不思議と同居しまうのが恋愛というものだ。
笑い合いながらSEXをしているカップルもいれば、肉欲とは裏腹に情事にせつなさを覚えている人もいるだろう。
阿仁谷ユイジ『男子迷路 インアウト』は、まさにエロと笑いとせつなさがひとつになった作品だ。
恋愛──心も身体もさまざまな意味でぐちゃぐちゃになってしまう厄介ごとの楽しさと苦しさ──そのどうしようもなさを、どうしようもなくうまく描く。BL作品であることより何より、まずそこに注目したい。
本作は、2010年に刊行されたオムニバスシリーズ『男子迷路』の続編となる。前作も今作も、個性豊かな男子たちの恋愛事情が、リレー形式で切り取られているが、前作を知らなかったとしても、カップルの日常劇として楽しい。
もちろんBLとしては、ある種そこが見せ場だからということにもなるが、彼らは日ごと夜ごと、SEXをする。
そのなかで、ときに溺れて時に拒まれて、ときに笑って時に泣いている。これもまたさまざまなシチュエーションの提示といってしまえばそれまでだが、いや、それがカップルの恋愛であればSEXは介在するもので、恋愛ってこういうものなのだということ。
エロくて笑えてせつないものが、恋愛なんだと認識させられる一作。
当たり前といえば、当たり前なのかもしれない。ただ、映画やドラマがSEXを普通のものとして普通に描けない今、SEXありきで恋愛のあれこれを描けるBL作品とこの作者は、至って真っ当でかなりすごいともあらためて認識させられる。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が発売中。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。